いま新築マンションの価格が都心を中心に高騰しているなかで、中古マンションをリノベーションして住もうと考えている人たちが増えています。また現在フジテレビ系月曜22時のドラマ「魔法のリノベ」が好評放送中です。
リノベーションといえば、独立したアイランドキッチンや無垢材で出来たフローリングの床など、たしかに魔法のように劇的な居住空間の変化が訪れるかもしれません。そして素敵な居住空間はたしかに存在します。
でも物件を契約して中古マンションにリノベーションの魔法を掛ける前に、ちょっと立ち止まって考えてほしいのです。わかりやすい変化を求める前に、まず考えなくてはならない部分が実は目に見えない部分に横たわっている場合があります。
今回からリノベーションの実際に関する話を3回シリーズでお届けします。
リノベーションの内容は同じなのに業者によって見積もりが違う不思議
話は少しさかのぼり、リノベーションをしようと中古マンションを契約し、その後2社の業者からリノベーションのプランの提案をもらった家族がいるとします。
業者Aは800万円のプラン、業者Bは1000万円のプランだったとします。
発注側の依頼者は困惑するわけです。「伝えた内容は同じはずなのに、なぜこんなにも金額に差が生まれてしまうのだろう」と。
ここで単純にリノベーション費用の比較で考えるとすれば、依頼者はもちろん金額の安い業者Aのプランを選択するはずです。できるならばできるだけリノベーションに掛かる費用は安くしたいと思うのが依頼側の心理です。
しかし、費用の比較だけでは単純に決めるのが難しい問題が実は存在します。
たとえば”床のフローリングを張り替える”この項目もどこまで作業をするのか、でまったく費用が異なります。フローリング材の種類が「合板」なのか「無垢」かみたいな誰でもわかりやすいものではなく、ただ床だけを張り替えるのか、もしも床下地や給排水管などで見えない部分で不具合が発生していれば、そこからしっかり補修するのかでは費用がまったく変わってきます。
しかし、見積書の内容にはどこまで対応するのか書いていないケースがあります。
考えてもいなかった内容を検討しなくてはいけない場合も
他のケースの場合でも、給排水管まわりも要注意ポイントです。給水管が鉄管で給湯管が被覆銅管の場合、特に給湯管の場合は築30年前後から漏水事故が多発しています。それにも関わらず、居住空間の見た目には影響を与えないため、給排水管まわりについては担当者の営業トークで丸め込まれてしまう可能性があります。
仮に給排水管まわりを交換しなければならなくなった場合、ほとんどの場合、給排水管まわりについては居住空間の見えない箇所であるため、依頼側のリノベーションプランでは想定されていない可能性があります。
そのため、もし給排水管まわりを交換なり補修を行うと、全面的なリフォームではなく、水回り機器+α程度のリフォームにせざるを得なくなります。もちろんここで給排水管まわりをしっかりケアすることは今後生活していくうえで非常に重要なポイントです。しかし契約を取りたい営業マンはここで間違った魔法を掛けてしまおうとします。つまり「今」は問題ないので、今回は給排水管まわりはそのままにしておきましょう。と言ってくる場合があるのです。
この「今」が曲者で、「消防署のほうから来ました」が単純に「消防署の方角」から来ましたって詐欺があるように、ここでいう「今は、たった今の「今」であって、もしかするとその給排水管は3日後にはダメになるかもしれません。考えてみるとわかると思いますが、築何十年にもなる中古住宅の給排水管が劣化していないわけがありません。さらにそこにまた新たに居住をするわけですから、このタイミングで給排水管を補修する決断をしなければ、またすぐ工事することは費用面から考えづらく、その後20年あまりそのまま放置される可能性が高いと考えると、いつか来る給排水管まわりのトラブルでさらに多額の費用を拠出しなければいけない状態に陥ってしまいます。
見積書からでは実は軽々に判断することが難しい
これを踏まえて業者Aと業者Bのプランを比較したとき、同じ内容で金額に隔たりがある場合は、業者Aはただ床を張り替えるだけだったり、給排水管まわりの刷新は考慮しないプラン、業者Bは床下地周りからの補修や給排水管周りの刷新までプランに入っている可能性が考えられます。
しかし見積もりから読み取れることがなければ、業者Bのプランは単純により高い金額で契約してやろうと思われてしまう可能性があります。
しかもしっかりとマンションのコンディションを把握できる人であればあるほど、プランの中にケア出来るような内容を盛り込むと言います。しかしそれが残念ながら増額となり、結果的に失注することになることもあるそうです。依頼者のことを思って先を読んで作ったプランは失注となり、契約後に費用が安く済むと思ったプランで費用がかさんでしまった例もあります。
最終的にどのプランを選択するのかは、依頼者が判断することになります。しかし選択する際には営業トークに振り回されず、客観的にリノベーションをする予定の居住空間のコンディションを判断する必要があります。
建物のコンディションをしっかり把握するためのホームインスペクション
そこで必要になってくるサービスがホームインスペクションです。ホームインスペクションはインスペクターと呼ばれる建築士が、第三者として建物の状況をしっかりと診断してくれます。逆に言えばリノベーション業者や不動産仲介に忖度することなく、客観的に対象となる住宅のコンディションを判断することができます。
物件を契約する前にホームインスペクションを活用することで、
- 間取り変更
- 水回りの補修の有無
- 移設の可否
- 天井高を上げる
- 断熱性・遮音性の向上
を確認することができます。
上記については、場合によっては竣工図など詳細な検査が必要な場合もありますが、ホームインスペクションである程度判断することが可能です。
ホームインスペクションを行うことで建物のコンディションを把握し、その結果を元に自分たちがリノベーションと、実際にリノベーションでやれることを比較して、現実的に必要なものを判断することが何よりも大切です。魔法に掛かるより前にやるべきことが存在するのです。
次回はさらにリノベーションの実態について詳しくみていきます。