2021年の不動産市場の振り返りと来年の展望

  • Update: 2021-12-17
2021年の不動産市場の振り返りと来年の展望
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さくら事務所 長嶋修

2021年の不動産市場、とりわけ住宅市場は一言でいえば「3極化」がますます進行した1年となりました。2020年4月~5月の緊急事態宣言下において半減した取引が、宣言明けとなると大きく息を吹き返すどころか、その勢いは衰えることなく現在も続いています。ただしその舞台は「都心」「駅前・駅近・駅直結」「大規模」「タワー」といった、より利便性が高く、比較的高額価格帯の物件がメイン。不動産経済研究所によれば、2021年10月発売の首都圏新築マンション平均価格は6,750万円と、1990年のバブル期を超えて過去最高となり話題を呼んでいます。

新築マンション価格高騰の背景

リモートワークの影響

その理由として挙げられるのはまず、リモートワーク(在宅勤務)の普及や自粛により外出の機会が減少したことなどで、より広く、より快適な環境を求めるといったもの。ただしこうした動きは主に「一次取得層」に限られるのが特徴。既にマイホームを所有している「買い替え層」は、間取りやグレードにある程度満足していることや、そこそこの立地なら自宅売却価格も高いものの、買い替え先も相当価格上昇していることから動きが鈍いのです。一方持ち家に比して相対的に、間取りやグレードを始めとする居住快適性に劣る賃貸住まいの一次取得者層が市場を牽引しています。また昨今は圧倒的に「共働き世帯」が多く、いわゆるダブルインカムであることから世帯収入が高い向きの動きが顕著です。

人手不足と住設機器不足

価格高騰に背景には、建設業界の「人手不足」や、木材や半導体などの品不足からくる価格上昇の影響もありました。木材が入ってこず価格が大幅上昇する「ウッドショック」といった異常事態は回避できたものの、例えば合板などは相変わらず品不足感が高く、半導体が組み込まれている給湯器などの設備機器では一部遅れも目立ち、価格も高め。

住宅ローンの低金利

しかし、現在の住宅価格上昇を大きく支えているのは、なんといっても圧倒的な「低金利」といえるでしょう。変動金利なら0.31%(auじぶん銀行)、固定でも0.9%(住信SBIネット銀行)と、地を這うかのようなレベル。さらに「住宅ローン控除」(住宅取得等特別控除)が利用できれば原則10年間に渡り、ローン残高の1%が所得税から控除されてきました。

例えば0.31%で4,000万円の住宅ローンを借りると年間の利息は12.4万円ですが、年末に4,000万円のローン残高があれば40万円戻ってくるから、17.6万円が浮くことになり、要は、金利負担どころか補助金までもらってマイホームを買っているようなものです。三井住友信託銀行・三井住友トラスト・資産のミライ研究所の調べによると、頭金ゼロ世帯は全体の27%。全体の70%を占める30代に限れば、頭金ゼロが38%、頭金10%が29%もいますが、この中には、手元資金があっても先ほどの、ローン金利と税控除の「逆ザヤ現象」を利用する意図で、あえて多額の頭金を払わず借入額を増加させている向きも相当数含まれているはずです。「借金すればするほど税金が戻ってくる」といったおかしな自体になっているのです。

そもそもこの住宅ローン控除は、金利7%を超える1972年に導入されたもので「金利分を一部補助する」といった精神で設けられた制度。ところがこの低金利時代では逆ざやが問題化し見直し議論が高まっていますが、現在時点では来年以降も同程度の支援規模を維持するものと見られています。

前述した高価格帯に加え、都市郊外のリーズナブルな一戸建ても好調。その理由はやはり低金利と税控除の恩恵で、家賃と同じか場合によってはそれ以下で、賃貸から、間取りも多く快適な持ち家に住めるためです。

2022年以降の不動産市況はますます3極化に

こうしたなか2022年以降どうなるかですが、現在のような低金利が継続する前提なら引き続き住宅市場は好調でしょう。米国ではインフレ沈静化の意図からテーパリングや金利上げが見込まれていますが、日本は引き続きデフレが継続し、金利を上げる、上がる状況にないものと思われます。用地不足や一部資材不足による供給制約があり、新築マンション・新築一戸建てとも新規供給数は一気に増やすことはできないため、供給が少なければ価格は維持ないしは上昇の方向。この流れは中古市場へと波及します。

一方で「駅から遠い」「間取りが狭い」「建物に何らかの難がある」といったものは敬遠され、取引数を減らしながら価格も緩やかな下落傾向。一部では「0円でも売れない」といった物件も増加するなど、引き続き3極化をますます進行させる事となるはずです。

日米欧の中央銀行の資産規模は、2008年のリーマン・ショック前に400兆円前後でした。それがリーマン・ショック対応、なによりコロナ対策で今となっては2,000兆円を超える規模にまで膨らんでいます。ペーパーマネーの価値は着実に希薄化しており、あり余った マネーが株や不動産に向かう展開となれば、1990年を遥かに上回るバブルが発生する可能性もあります。