はじめに
最近、調布市や吉祥寺、北海道三笠市で道路の陥没が相次ぎました。調布市や吉祥寺の例は大深度地下工事や隣地工事の影響がある可能性も考えられますが、地盤の陥没はどのようにして起こるのでしょうか。
あまり知られていませんが、大きな地震の後には陥没が多く起こる事が報告されています。また、地震の際には液状化現象によって陥没が起こることがあります。液状化は「人が死なない災害」と言われますが、戸建て住宅のみならず、マンションでも大きな被害を受けることがありますが、ハザードマップの整備が進んでいない、リスク把握が難しいという実態があります。
ここでは、地震で起こることが懸念される陥没と液状化という、身近にある地盤に起こる災害について触れてみます。
地震が起こる仕組み
地震は、「プレート境界」が原因で起こる海溝型地震と呼ばれる地震(東日本太平洋地震や、懸念される南海トラフ巨大地震など)、内陸の「活断層」が原因で起こる直下型地震と呼ばれる地震(熊本地震や、懸念される都心南部直下地震など)の二つがあります。
海溝型地震は震源は遠いことが多いですが、大きな津波と長い時間の巨大な揺れが懸念されます。活断層で起こる直下型地震は、海溝型地震より規模は小さいことが一般ですが、内陸直下の浅いところで起こるので、大きな揺れによる被害が都市部など人の住むところで発生しやすいという特徴があります。
地震があると、地下深くの数km~数10㎞にある震源から、私たちが住む地面の中(地盤)を地震の波が伝わってきます。地表に地震による揺れが伝わってくることで、建物などが被害を受けます。このとき、揺れにくい地盤の山地や丘陵地に比べると、埋立地や川沿いなどは、揺れが地盤の中で大きく増幅される揺れやすい地盤ということがいえます。このような揺れやすい地盤の地域では、周囲より揺れが大きくなることがあり、揺れにくい場所で震度5強だった揺れが、すぐ近くの揺れやすい場所では震度6弱、震度6強などに大きくなるというケースも考えらます。
一般的には丘陵地や台地でも、谷あいを埋めて作られた「盛土造成地」では揺れが大きくなりやすく、被害が増大することがあります。2018年の北海道胆振東部地震では、丘陵地の谷あいを埋めて造られた盛土造成地で液状化現象が起こり、住宅が大きく傾いて居住できなくなるなどの被害がありました。また、都内南部などでは、台地の地盤の地下にゆるい泥の層があるなどで、局所的に揺れやすい場所があることなども最近の研究機関の調べで分かってきました。
地震による被害の事例
地震によって発生する被害には、地震の揺れそのものによる被害のほか、津波、地震による土砂災害、液状化、そして陥没があります。
地震の揺れによって最も懸念されるのは住宅の倒壊です。住宅の耐震性が低いと倒壊に繋がりますので、既存住宅であれば耐震診断や耐震改修、新築住宅であれば耐震性を確保した住宅づくりが望ましいです。
次に、家の中であれば家具や家電の倒壊、落下に注意が必要です。建物の中では、ものが落ちてくる、倒れてくる、移動してくることで住む人に被害を与えます。高いところに不安定なものを置かない、テレビなどは固定する、背の高い家具は固定する、寝室に倒れたりするものを置かないなどの対策が必要です。
屋外であればブロック塀や墓石などの倒壊、転倒などの被害に注意が必要です。都市部では、上からの窓ガラスや外壁タイル、看板などの落下なども懸念されます。屋内からいきなり外に飛び出してしまうと、落下物による被害を受けてしまうおそれがあります。
震源が海底の大きな地震では、津波が発生することがあります。沿岸域や大きな川の河口近くにお住いの方は、津波ハザードマップなどを見て津波避難所を確認し、津波警報等が発令された際には速やかな避難が必要です。高台のほか、津波避難ビルに指定されている頑丈な建物の上階に逃げる事が必要です。
津波は通常の波のようにザバザバ押し寄せるものではなく、水のかたまりが一挙にがれき等とともに押し寄せるもので、深さ1mもあれば逃げることは極めて難しいです。津波は第1波、第2波より第3波以降が大きく、帰宅してしまった人が甚大な被害を受けた事例などもあり、津波警報が解除されるまでは帰宅しないなどの注意が必要になります。
山の斜面やがけの近くでは、土砂災害が発生することがあります。2018年の北海道胆振東部地震の際には、ニュース記事によると約7,000か所で土砂崩れがあり、斜面の高さの4倍まで土砂が届いているケースも多発していたとのことです。がけや斜面の近くに住んでいる方は、地震が発生した際には注意が必要です。特に急傾斜地の土砂災害警戒区域・特別警戒区域はもちろん、地質条件などによっては区域に近い離れた場所でも被害に遭う可能性があります。
住宅地などでは地盤の陥没、沿岸部などでは地盤の液状化が起こることで、我々が住む地盤が大きな被害を受けることもあります。これらの被害は、住宅の倒壊等と比べて余り知られていないことも多い現状ですので、今回のコラムでは詳しく掘り下げてみます。
陥没・空洞化は地震の後に起きやすい
最近、吉祥寺や北海道三笠市、昨年は調布市などで、道路陥没が発生しています。このような大規模な陥没は稀ですが、道路の陥没の件数は、国交省の資料によると、令和元年度で約9,000件発生しているとされております。この数は、1日の平均に換算すると、約25件/日にもおよぶ数となり、1時間に1件以上は全国のどこかで陥没が発生していると言うことができます。
写真は、2019年の北海道胆振東部地震において発生した、札幌市清田区の住宅街で住宅のすぐ脇における道路の陥没状況です。いっぱんには地盤が良いとされる、高台の火山灰台地の上で発生していました。
地震胆振東部地震による路面化空洞に関する論文では、以下のことが報告されています。
- 空洞は地震の直後に新規発生、拡大が多い
- 一年後でも空洞は新規発生、拡大がある
- 高い震度の地域ほど空洞の発生頻度が高い
- 道路では地震発生区間に新規空洞の割合増加
また、2004年の中越地震、2005年の福岡県西方沖地震など大規模地震で発生した路面化空洞に関する論文では、以下のことが報告されています。
- 震度5以上の地震で路面化に多くの空洞発生
- 広くて薄い空洞が多い
- 砂が多い地盤の地域や埋戻し土に多い
- 切盛境界や市街地では下水管埋設部に多い
- 地震直後と、数年後に発生するものがある
- 複数回の地震が助長する可能性がある
以上のように、大きな地震があった後に、路面化の空洞が起きている、発生しやすいということがわかっています。地震の際には、橋脚の段差、地面の地割れ、後で述べる液状化などによる地表面の凹凸などに加えて、空洞化や陥没が発生する可能性が高くなることにも注意が必要です。
なお、2つ目の論文にも「砂が多い地盤の地域や埋め戻し土」で多いとされており、埋め戻し土は道路では下水管を埋めている場所の土が該当し、空洞化・陥没が発生することが懸念されます。住宅の周りでは浄水槽を撤去した跡や、井戸を埋めた際の埋め戻し土などで空洞化、陥没する可能性が考えられます。
現在浄水槽などのない住宅でも、新たに土地を買った場合などには、過去に地下を掘削した場所が埋め戻されているケースや、地下階があった場所を埋め戻した場所などもあります。
埋め戻し土は、軟弱な地盤の場所ばかりでなく、「良い地盤」とされる場所でも発生することがあるので注意が必要で、過去の土地利用がわかると望ましいです。
液状化の被害の実態
緩い砂の層からなる地盤で、地下水が浅い(地表近くまである)場所では、大きな地震があった際に「液状化現象」が起こる可能性があります。水分がたくさん含まれているゆるい砂の地盤では、普段は砂粒同士が支えあい、その間を水が満たしている状態で安定しています。
このような緩い砂の層は、埋立地や低地の旧河道、氾濫平野、砂丘の間にある低地などの地形で良く見られますので、地形区分からある程度の液状化リスクを推定することや、地盤調査を行って液状化判定を行うこともできます。
ただし、通常の地盤調査では建物の重さに地盤が耐えられるかの調査のみで、液状化判定を行っていないこともありますが、地盤の陥没に比べると、発生する可能性を事前に予測しやすいと言えることができるといえます。
緩い砂の層からなる地盤で、地下水位が浅い地域では、地震により激しい振動が加えられると、砂粒の支えあいが崩れる液状化現象が発生します。大量の砂と水が、舗装の隙間などから噴砂として地表に噴き出してきます。
地震の後には、液状化した砂が地表に噴き出すなどで周辺の地盤が沈下します。直接基礎の建物では、大きく建物が不同沈下して傾き、砂の中に埋まってしまうほどの被害を受けることもあります。このような不同沈下の修正には、地盤や建物の状況にもよりますが、数百万円以上を多額の費用を要することが一般です。
杭基礎の建物では、建物は杭に支持されているため、杭が健全であれば建物自体は沈下しません。しかし、周囲の地盤が沈下することで段差が起こる「抜けあがり現象」と呼ばれる被害が発生することがあります。このときの段差は数十cmから1m近くに及ぶことも有ります。埋設配管の損傷のほか、外構部の被害が生ずることがあります。また、地盤が側方に流動する「側方流動」が大規模に発生した場合には、杭も断裂などの被害を受ける可能性があります。
このほか、地中のタンクやマンホールの浮き上がり、地下の空洞化・陥没が発生することがあります。
- 液状化空洞は広がりが大きく薄いという結果を再確認
- 液状化地域の空洞発生率は平時の7倍
- 多くは噴砂等の後に舗装と地盤の間に隙間が残存する形で発生
- 空洞多発箇所は路面変状箇所のほか隙間や排水系地中構造物付近
ということが報告されており、、液状化による空洞発生にも注意が必要です。
実際の東日本太平洋沖地震の例では、直接基礎と考えられる建物で、液状化した地点で著しい不同沈下が発生し、砂質地盤に建物が埋没して1階部分のドアが開かないほどに至っていた事例もありました。
一方、杭基礎建物である大規模マンションでも、数10㎝ほど周囲の地盤が沈下してエントランス部に段差が発生、地下の埋設配管が断裂される被害が生じました。なお、下水道施設では地下の管路も被害を受けていたり、砂が詰まる、必要な勾配がとれないなどで復旧に時間がかかることも想定されています。
東日本大震災の際、千葉県浦安市では、下水道の仮復旧に1か月以上を要しました。広域的な地震被害が発生した際には、建物は無事であっても、トイレが流せないなどの生活に支障が長期化することも懸念されます。
液状化はハザードマップだけでわからないことも
液状化現象は多くの人命を直ちに奪う災害ではないですが、説明したような家屋やインフラに大きな被害を及ぼすことが懸念されます。しかし、土砂災害警戒区域や津波災害警戒区域、2020年8月以降では水害ハザードマップ情報については、不動産取引時の重要事項説明が必要な項目となっておりますが、液状化ハザードマップについては告知が義務化されていません。なお、地盤の揺れやすさの情報等も、液状化と同じく告知されない情報に入ります。
液状化ハザードマップの実態として、自治体が作成したマップは作成の条件が統一されていなかったり、土木分野で用いる指標が表示されていることがあります。自治体の間で比較する際に同じ条件で比較ができなかったり、読み方が難いケースがあるほか、そもそもハザードマップが十分に整備、あるいは見やすい地図で公表されていない地域も少なくありません。インターネット上で公開している自治体の数も、わがまちハザードマップの集計では全国で361とされ、全体の約2割程度に留まるとみられます(別途、都府県で公開している場合があります)。
また、現在では改定が進んでいますが、関東地方の某自治体では液状化マップで「対象外」と表記(色が塗られていない)されている場所が、沼地のような場所で大きな液状化被害があった場所もみられました。人工的な地形が「対象外」とされてしまったことに原因があると考えられます。
液状化リスクを正確に把握するには
液状化リスクは、地形区分、過去の土地利用、過去の液状化発生履歴、液状化ハザードマップなどの公開情報で、土地取得前でもある程度リスクを絞り込むことができます。地形区分によるマップなどは、地図の精度の問題でピンポイントの情報が得づらいことや、情報を収集することが難しいというケースもあります。
さくら事務所のサービスである災害リスクカルテでは、ハザードマップに加えて地形区分・地歴・標高などをもとに専門家が災害リスクを判定し、その結果に対する対策を建物と防災の専門家がアドバイスさせて頂きます。転居先や現在居住中の場所の液状化リスクを含む災害リスクとその対策を確認したい方はぜひお気軽にご相談ください。
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災害リスクカルテは、過去345件超の物件で発行しています。それらの傾向から、約47.3%の物件で何らかの災害リスクが「高い」という結果となり、液状化では36.3%と1/3以上の物件で「液状化リスクがある」という結果が得られています。
災害リスクとその備え方は、立地だけでなく建物の構造にもよります。戸建て住宅でも平屋なのか、2階建てなのか、また地震による倒壊リスクは築年数によっても大きく変わってきます。
レポートだけではない!建物の専門家による電話相談アドバイスも
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