屋内で緊急地震速報が鳴ったらどうする?屋内被害を回避する新常識

  • Update: 2022-01-17
屋内で緊急地震速報が鳴ったらどうする?屋内被害を回避する新常識
災害リスクカルテ

はじめに

最近、震度4以上の地震が全国各地で発生していますが、いきなり緊急地震速報がなって焦ったという経験は、誰にでもあると思います。緊急地震速報は、大きな地震が来ることを教えてくれるツールです。いざ大地震発生の際には、命を守るための行動を取るために有効に活用することができます。

2022年1月17日で、兵庫県南部地震(災害名:阪神・淡路大震災)から27年を迎えます。兵庫県南部地震は、朝の5時46分という明け方に発生した地震として、在宅時、かつ睡眠中である人も多かったためか、負傷された方は家具等の転倒落下による例が多くみられました。屋内で、とくに我が家に居る時に緊急地震速報が鳴った時に焦ることがないよう、また家具の転倒などで負傷することがないよう、事前の地震対策も万全にしておきたいところですね。

ここでは、屋内で緊急地震速報が鳴った時にどうすればよいか、また事前にどのような備えをしておけばよいかについて紹介します。

緊急地震速報の仕組み

地震が起こると、震源からP波と呼ばれるこきざみで速度の速い波と、S波と呼ばれる揺れが大きくて速度が遅く、建物などに大きな被害をもたらす波が地盤の中を伝わってきます。緊急地震速報は、早く伝わるP波を地震計で感知して、震源の位置や地震の規模(マグニチュード)、遅れて伝わるS波の到達時刻を自動的に短時間で予測し、短時間に自動的に発表される仕組みです。緊急地震速報の計算に使われる地震計は日本全国で約1700か所あり、ほぼ日本全国が網羅されています。

緊急地震速報の仕組み(気象庁 HPより)

地震が発生したのち、緊急地震速報が発表されるまでの時間も年を経るごとに短くなっています。気象庁の発表によると震源で地震が発生してから平均20.9秒で速報が出されており(震源で地震が起きてから速報発表までの時間で、ある場所で緊急地震速報が鳴ってからの猶予ではありません)、この4年間で平均4.0秒も早くなっています。

緊急地震速報が鳴っても大きな地震が来なかったとか、稀に全く地震が来なかったという「空振り」も聞いたことがあるかと思いますが、気象庁の発表では、この5年間の平均の精度は8割を超えています。同時に他の場所で発生した2つの地震を、大きな地震であると判断することなどで、正確でない緊急地震速報が発表されることもありますが、ごく稀な事例です。このことから、緊急地震速報が鳴ったら地震が来る、いう備えと心構えが求められます。たとえ緊急地震速報が外れても「空振り」ではなく、いざという時の「素振り」だったと考えることもできます。

緊急地震速報が間に合わないことも

短時間で地震の大きな揺れが来る可能性を迅速に知らせてくれる緊急地震速報にも、弱点があります。それは、緊急地震速報が鳴る前に大きな揺れが街に到達してしまうことです。地震の震源が内陸で地下の浅い場所にあり、人の住む場所に近い場合に起こりやすいです。

震源と人の住む場所との距離が近いとP波とS波の到達時間に差ができず、P波到達後に自動計算して速報を発表するのが間に合いません。その結果、S波による地震の揺れが起きてから緊急地震速報が鳴ることになってしまいます。大きな地震を体感された方で、速報が鳴るより前に地震の揺れがあった体験をしたことがある場合は、このような理由によるものです。

緊急地震速報が間に合わないことも(気象庁 HPより)

一般に、緊急地震速報が鳴ったのち、緊急地震速報が鳴ってから揺れが到達するまでの時間は短いときは数秒から、長くても数10秒ほどと言われています。緊急地震速報が発表された際には、対応できる時間を取れるチャンスであるとも考えられますので、最短で数秒以内に大きな揺れに見舞われる可能性を踏まえた、命を守るための行動が必要になります。

緊急地震速報が鳴ったらどうする?

緊急地震速報後、数秒程度で揺れが来ると考えたとき、テレビなどでは「チャランチャラーン、チャランチャラーン、緊急地震速報です」で約5秒です。スマホだと「ギュイギュイギュイッ!地震です」が2回鳴って約5秒です。緊急地震速報の音が鳴ったら即、反射的に行動することが必要であるともいえます。

地震があったとき、物は置いてある場所から、①倒れてくる、②落ちてくる、③移動してくることで人に被害を与えます。兵庫県南部地震では、負傷の原因のうち家具の転倒や落下によるものは46%と半数近くに上っています。倒れやすいもの、落ちてきやすいものに近づかないことが重要です。また、手足の軽傷であれば命にかかわることは少なくとも、頭を強打すると行動に支障が出たり高度な医療を受ける必要があるなど、救急や医療体制も切迫する大地震時には取り返しがつかないこともありますので、まずは頭を守ることへの意識が重要となります。

兵庫県南部地震における家屋内での負傷原因(消防庁 HPより)
図の出展は日本建築学会「阪神淡路大震災 住宅内部被害調査報告書」

また、大体2008年以降に取り付けられたような比較的新しいガスコンロについては、大きな揺れを感知すると自動で火が消える機能が備わっていますので、揺れている最中に無理に火を消しに行くことは不要です。加えて都市ガスのエリアでいえば、揺れを感知するとメーターが自動で止まる仕様(マイコンメーター)の住宅も多いです。揺れが収まるまでは、まずは命を守ることが最優先です。キッチン周りは、冷蔵庫や電子レンジなど重い器具や戸棚や食器棚、また食器など割れやすく、落ちてくるものが多い空間と言えますので、離れることが望ましいです。

身の近くにあるタオルやかばん、上着、座布団、寝ているときであれば布団やまくらなど、頭を守ることができるものをかぶり、本棚、戸棚、食器棚など倒れる可能性のある家具からは可能な限り離れ、テーブルや机があれば下に隠れることです。大きな揺れが始まった場合は移動することは難しいので動かず、姿勢を低くして被害を防ぐ時間帯です。

2008年にアメリカで始まった「シェイクアウト訓練」でも、「まず低く、頭を守り、動かない」が原則です。速報を受けてから、屋外への避難ルートを確保する時間があればドアを開けるなどは望まれますが、揺れが始まってから無理に移動することは控えること、慌てて屋外に飛び出ると、自宅や周囲の建物や窓ガラスや外壁タイル、瓦などが落下してくる可能性があるので危険があります。

地震発生時の身の守り方のイメージ(消防庁 HPより)

地震の揺れは、多くの場合は1~2分以内で収まってきます。ただし、東北地方太平洋沖地震では途中から揺れが大きくなったり、大きな揺れが3分程度継続した地点もあります。高層ビル、マンションなどでは、地震が収まった後でも長時間揺れが継続することもあります。

地震が収まるまでは命を守る時間ですが、揺れが収まった後は、二次被害を防ぐことと状況確認が必要です。火を使っていたら消して、屋外への避難のために玄関などのドアを開けます。住宅の歪みによってドアが開かなくなる恐れがあるためです。現在では少し大掛かりですが、「耐震丁番」と呼ばれる丁番に付け替えたり、耐震ドアに交換するという方法もあります。いずれもドアは壊れてもドアが開かなくなるのを防いでくれるというものです。

転倒した家具やガラスなどが散乱していることがあるので、足元にも注意が必要です。万一火災が発生した場合には、天井にまで火が届いていた場合には個人での消火は難しいので、避難を優先することが求められます。

家屋が大きな被害を受けている場合や、津波の危険性がある地域にお住まいの場合で大きな揺れを感じた場合は、家屋が無事であっても津波からの避難が必要になります(津波の心配がないことが、気象庁情報で示されている場合を除く)。自宅を出る場合には、電気が停電したのちに通電すると、傷んだケーブルなどが原因で「通電火災」を招くことがあるため、可能な場合にはブレーカーを落としておくことが大事です。こちらも先述したドア同様に、後付け可能な「簡易型感震ブレーカー」(振動により重りが落下することでブレーカーを落とす補助器具)と呼ばれる機器を設置しておくことで、揺れを感知して自動的にブレーカーを遮断してくれます。

屋外に避難するときには、周囲の家屋が倒壊していたり、崖や斜面が崩れていたり、火事が発生している、陥没や液状化現象で道路の交通が困難になっていること、余震の発生により家屋の被害の増加や、瓦やタイル、ガラス窓などが落下する可能性にも注意が必要です。

室内での地震被害を減らすために

緊急地震速報が鳴ってから揺れが来るまでは短い時間しかなく、できることは限られます。普段からの備えが万全であれば、速報が鳴った後に大きな地震があっても慌てることが少なくなり、被害も抑えることができるといえます。戸建て住宅であれば、家屋が倒壊や大破の被害を受けてしまうと、家具などの固定が完璧で身を守る行動を取ろうとしても、被害が大きくなってしまいます。

1981年5月以前に建築確認申請を受けた*建築物(旧耐震基準)に加え、1981年6月以降に建築確認申請を受けた*建築物(新耐震基準)のうち、木造住宅であれば特に建築基準法の改正があった2000年5月以前の住宅も十分な耐震性がないことがあります。住宅が倒壊する方向は、その家の間取り、地震時の揺れの方向や揺れ方によってそれぞれ異なります。しかしそれは耐震診断で事前に把握しておくことができます。マンションであってもピロティ部分などは壁面積が少ないため地震に弱い可能性があります。したがって耐震診断や必要に応じて耐震改修により、地震によって家屋が倒壊・大破することがないか調査、対策する備えも求められるでしょう。

※竣工日が当該日以降でも、確認申請がこれ以前の場合は古い基準である場合もあります。

したがって旧耐震の住宅の場合は倒壊のリスクが高いため、まず外に出るという選択肢を持っていた方がいいでしょう。住宅が新耐震、中でも2000年以降の新耐震であった場合にはすぐに倒壊するというリスクは低いため、家具の転倒、落下、移動に対する対策が求められます。家具が倒れないようにするには、最も効果的なものは壁にL字金具でネジ止めしてしまうことです。壁に穴を開けたくない場合には、粘着シートと、突っ張り棒などを適切に用いる、キャスターがある場合はロックしてキャスター皿を使う、ガラス面には飛散防止フィルムを貼ることなどが有効です。キッチン周りの対策としては、簡易的なものだとS管やゴムのようなもので食器棚の開き戸が揺れによって開いてしまうのを防ぐ留め具の設置、もしリフォーム等をする場合には、キッチンに揺れを感知して自動で扉がロックされる「耐震ラッチ」を設置してもらうことをおすすめします。

吊り照明はまた、家具は下図のような転倒、移動をすることから、とくに本棚などが前面に転倒したとき、人のいる場所に倒れてこないように、ドアをふさいで逃げ道が確保できなくなることがないような家具の配置も工夫することが望ましいです。

家具転倒防止グッズの効果(内閣府 HPより)

高層マンションの上階などでは、長周期地震動との共振によりゆらゆらと長い揺れが続き、家具の横方向への移動が発生する懸念もあります。台の上に置かれたテレビ、電子レンジなどの落下なども発生しやすく、家具の移動、落下が発生しないよう固定に対して意識が必要となります。これはペットのいる家庭にも大きく意識してほしい点です。室内でペットを飼っていらっしゃる場合はできるだけ落下が発生しない場所に屋根付きのゲージを設けることをおすすめします。

理想的には、転倒、落下するような家具はなるべく居室、寝室に置かないということも有効です。住まいに転倒、落下するような家具がない部屋があれば、地震時に比較的安全な空間にできます。とくに、寝室で被災するのは夜間である可能性も高いでしょう。夜間に停電を伴う地震があった場合に、家具の転倒等があると、何もできないうちに身動きがとれなくなってしまうことも考えられます。また、すぐに身動きの取れないようなご高齢の方がいらっしゃる場合には、戸建てであればなるべく寝室を1階に設け、耐震ベッドを利用したり、少し大掛かりですが地震があった時に押しつぶされない空間を作る耐震シェルターを組み込んでおくと安心です。

地震による家具の動き方のパターン(消防庁 HPより)

したがって玄関へ向かう途中の動線にも背の高い家具を配置しないことが望ましいです。玄関も乱雑にしておくといざというときに物が散乱してすぐに靴が履けず、屋外への避難に支障が出ることもあります。なお、トイレや浴室に逃げ込むと良いという話も耳にします。落下物が少ない点はありますが、ドアが開かなくなった場合などに避難が困難になる場合もあるので必ずしもお勧めできません。トイレや浴室に居て地震があった場合や、逃げ込んだ場合にはドアを開けることが望ましいです。

以上のように、緊急地震速報が鳴ってからどうしようかと慌てるのではなく、事前にできることを万全にしておくと、いざというときにも心構えができます。地震によって、住まいは無傷であっても住んでいる人が被害を受けてしまうことを防ぎたいですね。是非、緊急地震速報が鳴ったときにどう行動するか、また普段から家の中で家具が倒れてくることのない空間について、意識してみてほしいと思います。

検討中の物件やご自宅の災害リスクを知りたい方は「災害リスクカルテ」のご検討を

災害リスクカルテ(電話相談つき)

 さくら事務所の災害リスクカルテ(電話相談つき)は、知りたい場所の自然災害リスク(台風・大雨、地震etc)を地盤災害の専門家がピンポイントで診断、ハザードマップがない土地でも、1軒1軒の住所災害リスクを個別に診断します。液状化リスクの可能性も、地形情報やハザードマップ(場合により近隣地盤データ等)から判断、建物の専門家がそれぞれの災害による被害予測も行い、自宅外への避難の必要があるかどうかなどをレポートにします。

災害リスクレポート専門家による電話コンサルティング
で、あなたの調べたい場所の災害リスクを完全サポート

  • 災害と建物の専門家が具体的な被害を予想
  • 最低限の対策や本格的な対策方法がわかる
  • 災害対策の優先順位がはっきりわかる

国内唯一の個人向け災害リスク診断サービスです。

※全国対応可、一戸建て・マンション・アパート対応可

 災害リスクカルテは、過去345件超の物件で発行しています。それらの傾向から、約47.3%の物件で何らかの災害リスクが「高い」という結果となり、液状化では36.3%と1/3以上の物件で「液状化リスクがあるという結果が得られています。

 災害リスクとその備え方は、立地だけでなく建物の構造にもよります。戸建て住宅でも平屋なのか、2階建てなのか、また地震による倒壊リスクは築年数によっても大きく変わってきます。

レポートだけではない!建物の専門家による電話相談アドバイスも

災害リスクの判定・予測をもとに専門家がアドバイス

 既にお住まいになっているご自宅や実家のほか、購入や賃貸を考えている物件、投資物件の災害リスクや防災対策が気になる方におススメです。特に、ホームインスペクションを実施する際には、併せて災害への備えも確認しておくとよいでしょう。災害リスクカルテの提出はご依頼から概ね4日で発行が可能です(位置の特定・ご依頼の後)。不動産の契約前や、住宅のホームインスペクションと同じタイミングなど、お急ぎの方はまずは一度お問合せください。