地盤の陥没・シンクホールの実態~映画『奈落のマイホーム』 日本公開記念

  • Update: 2022-11-11
地盤の陥没・シンクホールの実態~映画『奈落のマイホーム』 日本公開記念

地盤の陥没(シンクホール)の実態

映画『奈落のマイホーム』 日本公開!

 2021年の韓国映画興行収入ランキング第2位の、大ヒット映画『SINKHOLE』が、邦題『奈落のマイホーム』として、11月11日より国内で公開・上映が開始されました(映画公式ページ)。映画『奈落のマイホーム』は、大都市ソウルの中心街で巨大な陥没穴(シンクホール)が発生し、マンションが1棟ごと、わずか1分で地下500mの底に落下してしまうパニックムービーです。

 本作は、ただ「奈落の底」に落ちるだけの映画ではありません。主人公が手に入れたとあるマンションの一室、そのマイホーム取得にかける苦労や、賃貸住まいVS持ち家住まいという問題、現実の欠陥住宅でも問題になる「床に置いたビー玉が転がる」、また気の合わない住人との間の隣人トラブルなど、現実の不動産でも起こりう悲喜こもごもも同時に描かれている「マイホームムービー」でもあるのです。

 だいち災害リスク研究所所長の横山芳春は、本作の国内での公開に際して、劇場用パンフレットに陥没穴シンクホール)に関するコラムを寄稿いたしました。これを記念して、実際に街中で実際に発生する可能性のある「地盤の陥没」に関してまとめました。

映画「奈落のマイホーム」劇場用パンフレット(表紙)

地盤の陥没の原因は?どのくらい起きている?

 マンションが1棟、500mの陥没穴(シンクホール)の底に落下するストーリーは映画の話ですが、実態の地盤陥没はどのようにして起きているのでしょうか。

 地震以外の原因で発生する地盤陥没の原因は、大きく分けると、5つがあります。①自然の地質構造によるもの、たとえば石灰岩地帯の鍾乳洞があるような場所での落盤、②鉱山や石材などの採掘跡で、坑道跡などが陥没に至るケース、③地下や地中の土木工事によるケース、④人工的なインフラ老朽化などにより漏水が発生することによるケース、⑤自然の地下水により地盤が浸食されていくケースなどが考えられます。

 ①は特殊な地質の地域、②も鉱山や採掘跡地がある地域に多いといえますが、都市部で大規模なものは、地下利用によって発生する③、④が特徴的です。③は数は少ないですが、2016年に発生した「博多駅前道路陥没事故」などがあります。後ほどまとめて解説します。

 ④の人工的なインフラ老朽化などにより漏水が発生することによるケースは、都市部において非常に身近な事例であると考えられますが、国内ではどのくらいの数の陥没が発生しているのでしょうか?国土交通省のまとめでは、令和2年度に起きた道路陥没件数は9255件(直轄国道、都道府県、市町村の計)とされ、1日約25.3件、1時間に1回以上の割合で道路陥没が起きている計算になります。

管路施設に起因する道路陥没件数(出典:国交省の資料

 

 国土交通省のまとめ(上図左のグラフ)では、管路施設に起因する道路陥没件数は、平成28年度には約3,300件となり、平成19年度から年間で1000件以上、陥没件数は右肩下がりで少なくなっている傾向がうかがえます。なお、管路施設の布設後40年以上経つと陥没の発生件数、割合とも増加し、50年、60年経つとさらに急増するようで(上図中央のグラフ)、高度成長期に作られたインフラの老朽化・破損という課題が見え隠れします。ただし、その陥没の深さは50㎝以下のものが9割で、100㎝を超えるものは全体の2%とされています。

都市部の地盤陥没の原因は何か?

 都市部における道路の陥没発生原因を見てみると、国土交通省のまとめでは、政令市の例のうち38%が下水道等の管路など、29%が道路側溝など道路施設によるものとされていますが、原因が不明なものも約3割近くあるなど、原因究明が難しいものも多く含まれていることがわかります。道路では、地下に下水道などの管路が埋設されている場所も多くあります。このような場所は土を掘り返して埋設管を設置し、埋め戻しを行っているところです。

 そもそも何万年、何千年をかけてゆっくりと堆積した自然の地盤と比べると、地下に配管が埋設されている場所は人が掘り返して埋め戻している軟弱な地盤に、水道管などの配管が埋められている人工の地盤といえます。メンテナンスで掘り返す前提もありますが、ゆるい人工の地盤の中に、漏水が起きやすい下水道管などが埋まっているというつくりから、道路は陥没が発生しやすい場所であるともいうことができるでしょう。

管路施設に起因する道路陥没件数(出典:国交省の資料

 

 地下や地中の工事による陥没の事例では、2016年11月に福岡県福岡市で発生した博多駅前道路陥没事故があります。これは幅約27メートル、長さ約30メートル、深さ約15メートルに及んだもので、博多駅前という人口密集地で起きた大規模な陥没でした。早朝の発生により人的被害や建物の被害はありませんでしたが、軟弱地盤の下の岩盤を掘削していた地下鉄工事現場で、トンネル上部の岩盤が想定より薄く、これが割れて軟弱地盤の土砂が流れ込んだことなどが原因とされます。2020年6月には新横浜の地下トンネル上で陥没があり、工事による土砂の取り込み過ぎが原因とされています。

 2020年10月には、調布市の外環道地下トンネル工事地付近で、住宅前の道路陥没の被害がありました。「特殊地盤と施工ミスが原因」とされますが、地下47mに掘られた大深度地下工事においてシールド工事に伴う土砂取り込みに伴うものであり、地中の工事による陥没の事例であるということができるでしょうか。

地盤陥没に前兆現象はあるの?

 それでは、陥没が発生する際に、事前に前兆現象がみられることはあるのでしょうか?桑野玲子先生の論文によると、「陥没は“突然”起こるように見え地表から前兆を掴みにくい」、「地表の変状というヒントもほとんどあらわれないまま急激に崩壊に至るのが通常で,この無兆候性が陥没対策をより一層難しくしている」とあり、地中では変化が起きていても、地表では事前の前兆は現れないことも多いことがうかがえます。

 そのような中で、空洞が存在する場合に路面に表れる可能性が高い損傷は「路面のひび割れ、縦断凹凸」という研究報告もあります。地中の土砂が流出していることで、路面にひびが入ったり、道路がたわんでいる、アスファルトが浮いているように感じるケースは発生しやすいでしょう。このような場合は、場合によっては舗装の下の地盤の流出、空洞化が進行しており、陥没が発生する直前のようなこともあります。実際にこのような場所は、アスファルト舗装をはいでみると空洞がみられることがあります。下の写真のように、舗装上のある場所がひびが囲んでいたり、道路が凹地状にたわんでいるような場所は、空洞化が進んでいないか要注意であるといえます。

アスファルト舗装にみられるたわみとひび割れ(横山芳春撮影)

 地下空洞の調査にあたっては、地中レーダー探査や、表面波探査微動探査など物理探査のほか、ボーリング調査などが用いられます。敷地境界や建物の基礎がある部分などでは、段差があって車の出入りが激しい場合に車が段差を超えるごとに地中に振動を与えて、舗装の下の土が流出していってしまうケースもありました。地下埋設配管の漏水がなくとも、空洞化が進むケースです。

 上の写真のように舗装のたわみが進行している場合には、少しだけ穴をあけて棒などを突きこむと、スカスカで地盤が流出していることもあります。地表に返上が表れている場合には、舗装をはいで確認したほうが早いケースもあるでしょう。このような事例は、著者も都内の谷底低地の軟弱地盤地域のビル駐車場で調査・復旧業務に携わったこともありますが、周囲の地盤が沈下を続けているような、地盤の軟弱な地域でより発生しやすいものと考えられます。

地盤陥没やひび割れなどを見つけたら?

 それでは、身近な場所で地盤の陥没やひび割れなどを見つけたらどのようにすることがよいでしょうか。公園や学校などの施設であれば管理者や所有者、公的な道路であれば、管轄の市区町村などでもよいですが、全国共通の道路緊急ダイヤル#9910も活用できます。道路緊急ダイヤルは、国土交通省が管理しており、都道府県、市区町村市が管理する道路への通報も一元的に受け付け、それぞれの道路管理者に連絡してくれる仕組みです。緊急通報は、道路の穴ぼこ、路肩の崩壊などの道路損傷、落下物や路面の汚れなど「道路の異状」を対象としているものですので、車両の事故などは警察などに連絡が適切です

陥没や段差などがあった場合は道路緊急ダイヤル#9910へ通報を

国土交通省 HPより)

 

震度5弱以上の地震発生時には道路陥没にも注意を

 下水管などの老朽化や地下工事による地盤陥没は平時に起こるものですが、地震時にも陥没には注意が必要です。昨年12月に公開したコラム「ハザードマップだけでは把握しづらい陥没・空洞化は地震の後に起きやすい!」にて、震度5程度以上で地震後の陥没・空洞化が起きやすいこと、液状化とともに地盤が空洞化し、陥没が起こることがあることを説明しました。

 2011年の東北地方太平洋沖地震東日本大震災)、2016年の熊本地震、2018年の北海道胆振東部地震、2022年2月に起きた福島県沖の地震などでは、道路の陥没が発生していました。大きな揺れを感じた後、道路を歩行、通行する際には、このような道路の陥没やアスファルト下が空洞化して陥没直前のケースも考えられることから、ゆっくり足元を確かめながら、とくに暗い時間帯などは陥没孔に転落などのないように注意が必要です。

北海道胆振東部地震における路面の陥没の事例(撮影:横山芳春)

 砂分が多く地下水位が高い、埋め立て地や川の跡地などでは、大地震時には地盤の液状化も心配されます。液状化は住宅の沈下や地域の地盤沈下にもつながることがあるほか、道路の段差や陥没なども引き起こすこともあります。道路の被害によって、地震で建物や部屋は無事でも、周囲の道路が通行不能になる場合や、車が泥水に埋まってしまう場合、地下配管にダメージを受けて復旧に時間がかかることも想定されます。地震時の地盤の揺れやすさのリスクや、液状化のリスクについても調べておくことがよいでしょう。

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