中古住宅を購入する際、多くの人が注意しているのは「建物に不具合や欠陥はないか」ということではないでしょうか?
不具合や欠陥が購入前にわかれば、売主に対して補修を依頼するか、あるいは購入を取りやめることも可能となります。
また、中古住宅の購入時には、不具合や欠陥に関するいくつかのチェックポイントがありますが、なかでも注目しておきたいのは「基礎のひび割れ」です。
「基礎のひび割れ」は比較的よく起こる劣化現象ではあるものの、リスクが高いものとそうではないものがあり、それらを見きわめて適切に対処する必要があります。
そこで今回は、中古住宅を購入するときにとくに注意しておきたい「基礎のひび割れ」について、正しい見分け方と補修方法を徹底解説いたします。
中古住宅における基礎のひび割れの見分け方
現在、住宅の基礎は、鉄筋コンクリートでつくられることが義務付けられていますが、素材の性質上、必然的にひび割れが生じることがあります。
住宅基礎のひび割れは、割れ目や亀裂などを意味する「クラック(crack)」とも呼ばれ、あらゆることが原因で起こります。
例えば、施工時に起因するものや施工後の乾燥収縮、その他にも中性化、地震、地盤沈下などさまざまです。
しかし、これらひび割れには、危険性があるものとそうではないものがあり、そのどちらであるのか見分けることがポイントとなります。
もちろん、購入を検討している中古住宅の基礎にもひび割れが生じている可能性があるため、その危険性を適切にジャッジして決定することが重要になります。
住宅基礎のひび割れの危険性を見分けるポイントとは、以下の通り大きく3つです。
- ひび割れ(クラック)の幅
- ひび割れ(クラック)の数
- ひび割れ(クラック)の深さ
これら3つのポイントについて、以下に解説いたします。
ひび割れ(クラック)の幅
住宅基礎のひび割れの幅をチェックすることが、危険性を見分ける1つ目のポイントです。
危険性があるひび割れの幅とは、0.3mm以上が目安となります。
0.3mm以上のひび割れは建物の構造に影響を与える可能性があるものと考えられ、とくに0.5mm以上にもなると、雨水の侵入により内部の腐食化が進行する恐れがあるものと判断できます。
よって、幅が0.3mm以上のひび割れがある場合は、適切な方法により補修を行うことが重要です。
また、0.3mm未満のひび割れは、一般的に「ヘアークラック」といい、危険性は低いことから、無理に補修する必要はないとされています。
ただし、経年とともに幅が広がっていくことも考えらえるため、経過を観察しておき、状況に応じて処置を検討していくことも重要なポイントです。
なお、ひび割れの幅の測定は、「クラックスケール」を使うことで、誰にでも簡単に行えます。
「クラックスケール」は、アマゾンのような通販サイトやホームセンターなどで、数百円から購入できます。
ひび割れ(クラック)の数
住宅基礎のひび割れの数をチェックすることが、危険性を見分ける2つ目のポイントです。
一般的に、0.3mm未満のヘアークラックは、危険性はないため、基本的に補修を行わなくてもよいとされています。
ところが、ヘアークラックであっても、その数が多いようであれば、問題を抱えている可能性があると考えられます。
というのも、一定の範囲に集中して発生するひび割れは、例えば不動沈下のように想定を超えた負荷が同じ場所にかかっているなど、正常な状態であれば起こりにくい現象であるためです。
ひび割れの数が1mの範囲に3つ以上確認できるようなら、専門家に診断を依頼し、どのように対処するべきか検討するとよいでしょう。
ひび割れ(クラック)の深さ
住宅基礎のひび割れの深さをチェックすることが、危険性を見分ける3つ目のポイントです。
幅だけでなく深さがともなったひび割れは、「構造クラック」や「貫通クラック」などと呼ばれ、構造の耐力に影響する可能性のある、非常に危険性の高いものと判断できます。
危険性が高いひび割れの深さとは、4mm以上が目安となります。
深さが4mm以上のひび割れは、場合によっては鉄筋にまで及んでいるケースもあるため、とくに注意が必要です。
鉄筋に錆びが生じると、膨張して内部からコンクリートを破壊することがあり、そうなるとさらに範囲を拡大させるようになります。
鉄筋の錆びは、基礎の強度を著しく損ね、建物の寿命を縮める原因となります。
ひび割れの深さが4mm以上ある場合は、適切な方法により補修を行うことがきわめて重要です。
なお、ひび割れの深さは「クラック深さゲージ」などの道具もありますが、針金を使って代用することも可能です。
中古住宅の基礎のひび割れ補修方法
中古住宅の基礎にひび割れが生じている場合、それが危険性の高いものであれば適切に補修を行わなければなりません。 中古住宅の基礎のひび割れの補修を行う場合、いくつかの方法がありますが、代表的なものといえば以下の3つとなります。
補修方法 | 作業内容 | 費用相場 |
---|---|---|
Uカットシール工法(Vカットシール工法) | ひび割れ部分をU字型にカットし、補修材を充填して表面を整える方法 | 4,000~6,000円/m程度 |
ビックス工法 | 専用器具を用いて、ひび割れの奥深くまでエポキシ樹脂を注入する方法 | 10,000~20,000円/m程度 |
アラミド繊維シートの貼り付け | ひび割れが生じている基礎表面にアラミド繊維シートを貼り付けた後、その上をモルタルなどで整える方法 | 20,000~30,000円/m程度 |
なお、基礎の補修をDIYで行うことも可能性ですが、住宅の基礎は重要構造であり、またひび割れによっては建物の寿命に影響することもあるため、専門業者へ依頼することをおすすめいたします。
それでは、以上の代表的な3つの基礎のひび割れ補修方法について、それぞれの概要を解説いたします。
Uカットシール工法(Vカットシール工法)
Uカットシール工法(Vカットシール工法)は、ひび割れ部分をU字型(V字型)にカットし、補修材を充填して表面を整える方法です。
Uカットシール工法(Vカットシール工法)の必要な工具や材料、施工の流れ、費用などを簡単に解説いたします。
必要な工具や材料
- ディスクグラインダー
- 刷毛、ワイヤーブラシ
- プライマー
- コーキング剤
- モルタルなど
施工の流れ
- ディスクグラインダーを使い、ひび割れに沿ってU字型(V字型)の溝を設けるようカットする。
- U字型(V字型)の溝の中を刷毛やワイヤーブラシで掃除する。
- U字型(V字型)の溝の中にプライマーを塗布する。
- プライマーが乾いたら、仕上げ面よりも少し低くコーキング剤を充填する。
- コーキング剤が乾いたら、その上へポリマーセメントモルタルなどを充填し、仕上げ面に合わせて平滑に仕上げる。
- 必要に応じて塗装などで仕上げる。
費用
4,000~6,000円/m程度
ビックス工法
ビックス工法は、専用器具を用いて、ひび割れの奥深くまでエポキシ樹脂を注入する方法です。
ビックス工法の必要な工具や材料、施工の流れ、費用などを簡単に解説いたします。
必要な工具や材料
- ディスクグラインダー
- 刷毛、ワイヤーブラシ
- 専用注入器具
- コーキング剤
- エポキシ樹脂系注入剤
施工の流れ
- ディスクグラインダーや刷毛、ワイヤーブラシを使い、不純物除去などの下地処理をする。
- ひび割れの中心に専用注入器具を装着するための台座を設置する。
- 注入剤が漏れ出さないよう、コーキング剤でひび割れ部を塞ぐ。
- 台座に専用注入器具を装着する。
- エポキシ樹脂系注入剤を専用注入器具でひび割れ内部に低圧で時間をかけて注入する。
- 硬化養生をする。
- エポキシ樹脂系注入剤の硬化が確認できたら、専用注入器具を取り外し、ディスクグラインダーなどで平滑に仕上げる。
- 必要に応じて塗装などで仕上げる。
費用
10,000~20,000円/m程度
アラミド繊維シートの貼り付け
アラミド繊維シートの貼り付けは、ひび割れが生じている基礎表面にアラミド繊維シートを貼り付けた後、その上をモルタルなどで整える方法です。
アラミド繊維シートとは、防弾チョッキにも採用されるほどの高強度を有する工業用高機能素材のことで、スーパー繊維とも呼ばれています。
アラミド繊維シートの貼り付けの必要な工具や材料、施工の流れ、費用などを簡単に解説いたします。
必要な工具や材料
- ディスクグラインダー
- アラミド繊維シート
- エポキシ樹脂
- モルタルなど
施工の流れ
- ディスクグラインダーを使って不純物を除去し、凹凸がある部分はモルタルなどで平滑に処理する。
- 下地面にエポキシ樹脂を下塗り、中塗りを塗り重ねる。
- エポキシ樹脂を塗り終えたら、すぐにアラミド繊維シートを貼り付ける。
- アラミド繊維シートの上に、エポキシ樹脂を塗り重ねる。
- 硬化養生をする。
- エポキシ樹脂の硬化が確認できたら、モルタルなどで平滑に仕上げる。
- 必要に応じて塗装などで仕上げる。
費用
20,000~30,000円/m程度
中古住宅の欠陥確認はホームインスペクションにお任せ

中古住宅を購入するときには、家族が長く安心して暮らすためにも、不具合や欠陥が潜んでいないかしっかりとチェックすることがポイントとなります。
とくに、建物寿命にも影響する可能性のある「基礎のひび割れ」は、その有無や規模などを確認しておくことが重要です。
仮に、危険性の高いひび割れが基礎に生じている場合、適切な方法で補修を行わなければなりません。
危険の芽を早い段階で摘み取ることで、建物の長寿命化を図ることが可能となります。
また、中古住宅に潜んでいる不具合や欠陥は、基礎だけではなく、その他見えない部分で見つかることも珍しくありません。
例えば、千葉大学大学院小林秀樹研究室の草処章一郎氏とさくら事務所で行った共同研究によると、以下の通り、築30年の中古戸建の約半数もの建物が傾いていることが明らかとなっています。
住宅の傾きは、建具の建て付け不良や隙間の発生などが起こりやすく、また、暮らす人の健康にも影響を与えることのある現象です。
住宅の傾きなどは、一般の人が簡単に見つけられるものではなく、知らないまま購入し、時間が経過して気付いたときには、症状が進行していることも少なくありません。
そのため、中古住宅を購入するときには、専門的な見地から、建物の劣化状況や欠陥の有無などを診断する
「ホームインスペクション」を実施することをおすすめいたします。
住宅の傾きはもちろんのこと、中古住宅でよく見られる雨漏りの有無や設備の不具合など、あらゆる部分のチェックできるため、補修の必要性や購入の決定などを判断できるようになります。
これから中古住宅の購入を予定しており、ホームインスペクションの実施を検討している方は、お気軽にさくら事務所までご相談ください。
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