我が家を土砂災害から守る七福神チェックリスト~土砂災害最多の7月を前に確認したいポイント7選

  • Update: 2023-06-26
我が家を土砂災害から守る七福神チェックリスト~土砂災害最多の7月を前に確認したいポイント7選
新築一戸建て引き渡し前チェック(内覧会立会い・同行)

我が家を土砂災害から守る七福神チェックリスト
土砂災害最多の7月を前に確認したいポイント7選

 国交省のまとめでは、過去10年間(平成25年~令和4年)の土砂災害は、それ以前の10年間(平成15年~平成24年)の年平均で約1.2倍となるなど年々増加傾向にあり、最も土砂災害が多い月は7月であるとされています。国土交通省は、土砂災害の防止と被害の軽減を目的に、昭和58年より6月の一か月間を「土砂災害防止月間」と定めているなど、土砂災害への備えや見直しを行っておきたい時期です。

 ここでは梅雨時に加えて台風接近もあり、年間で最も土砂災害が多いシーズンとなる7月を前に、「我が家を土砂災害から守る七福神チェックリスト」として、確認しておきたいポイント7選をまとめました。

2021年7月3日に発生した熱海市伊豆山土石流災害の被害(横山芳春撮影)

土砂災害ハザードマップを確認

 まず行いたいのは、土砂災害ハザードマップの確認です。土砂災害には、急傾斜地の崩壊(がけ崩れ)土石流地すべりの3種類があります。急傾斜地の崩壊(がけ崩れ)は急な斜面、がけが大雨や地震などによって一気に崩れてくるものをいいます。土石流は、渓流沿いの土砂が大雨などによって水と土砂が入り混じった状態で流下してくる現象で、長い距離を流れて住宅などを破壊して進行していきます。地すべりは地下に滑りやすい地層がある場所などで、岩盤が比較的ゆっくり動き出すものです。

 これらの災害がある可能性がある「土砂災害(特別)警戒区域」の場所を示したものが土砂災害ハザードマップです。平坦な土地で、「土砂災害(特別)警戒区域」がない自治体では、土砂災害ハザードマップは作成されません。例えば東京都では江戸川区や荒川区などの7市区が該当します。

土砂災害の種類(東京都建設局HP

 

 土砂災害警戒区域イエローゾーン)は、「土砂災害が発生した場合に、住民の生命または身体に危害が生ずるおそれがあると認められる区域」が指定されます。そのうち、より大きな被害を受ける可能性がある地域は土砂災害特別警戒区域レッドゾーン)とされ「土砂災害が発生した場合に、建築物の損壊が生じ住民等の生命又は身体に著しい危害が生ずるおそれがあると認められる区域」について指定されます。

 土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)では、特定の開発行為が許可制となり、建築物の構造規制などが行われます。不動産を取引する際の重要事項説明においては、土砂災害警戒区域では区域内にあることを説明する事が、土砂災害特別警戒区域では 説明に加えて都道府県知事の開発許可を受けた後でないと広告、売買契約が行えないことなどが義務化されています。

土砂災害警戒区域・特別警戒区域の指定範囲(急傾斜地の崩壊の場合)(東京都建設局HP

 

 土砂災害は、高低差が大きな地域(関東地方であれば東京都西部〜横浜市西部の多摩丘陵や、鎌倉市〜逗子市、横須賀市の三浦丘陵)で起きやすく、とくに土石流については岩盤が風化しやすく急峻な花こう岩地帯の山地がある地域(中国地方、四国地方の瀬戸内海沿いなど)で発生しやすい傾向があります。

 お住まいの土地や引っ越しを検討している土地の土砂災害ハザードマップを確認しておくといいでしょう。「重ねるハザードマップ」は全国のマップが閲覧できて便利ですが、掲載されていない自治体がある場合や、各自治体のマップではより細かい情報が掲載されていることもあるので、併せて確認することをおすすめします。

 賃貸、売買物件の契約時における重要事項説明項目にも含まれていますが、物件選定の際にご自身で事前に調べておくことが望ましいです。土砂災害の種類と、土砂災害警戒区域か土砂災害特別警戒区域が掲載をチェックしましょう。近くの避難所や避難ルート、自治体によっては水害により想定される浸水深も地図上に併せて表記されていることがあります。

周囲にがけ、斜面、擁壁がないか確認

 ハザードマップで色がついていない場所=安全とはいえない点には注意が必要です。静岡大学の調査(出典)では、過去20年間の土砂災害犠牲者のうち、土砂災害危険箇所(ただし、土砂災害警戒区域と一致しません)内での死者は76%で、範囲近傍が11%、範囲外が13%の計24%と、およそ1/4の方が土砂災害の危険個所の外で亡くなっています。昨年の台風15号でも、静岡県浜松市付近の調査では土砂災害警戒区域に指定されていない家屋が被災している事例が複数ありました。

 土砂災害ハザードマップで色がついている場所は要注意ですが、色がついていない場所でも、
1)宅地の近傍に土砂災害(特別)警戒区域がある場所がないか
2)宅地の周りにがけ、斜面がある場所がないか
3)宅地の周りに擁壁がないかか

のいずれかに該当していないか確認しましょう。

 土砂災害(特別)警戒区域は、前項で紹介したように例えば急傾斜地の崩壊(がけ崩れ)では斜面の角度、高さなどの要件があります。しかし、要件を満たさないため区域指定されていないがけ、斜面が崩れないというわけではありません。

 斜度(がけの角度)30度以上のがけは崩れた時に被害が大きくなりやすいですが、それ以下の斜度のがけも崩れることがあります。途中で斜度が変わっている場合や、人が削ったがけ、過去に崩れたことがある場所の周りも、崩れやすいことがある場所です。家の近くに崖がある場合は、概ね崖の高さの2倍以内の場所では気を付けたほうが良いでしょう。

 崖でなくても、古い石積みの擁壁なども崩れることがあります。現在の建築基準法に則らない擁壁では、大雨や地震の際に崩壊、損壊することで、下を歩いている歩行者や住宅に被害を与えかねないばかりか、上に載っている住宅が傾斜やひどい場合には崩落してしまうこともあります。

 2016年4月16日 熊本地震被災地でみられた宅地擁壁の損壊

避難の必要性をチェック

 以上のハザードマップや周囲のがけ、斜面、擁壁、などの様子から、「我が家は豪雨時、安全な場所に避難の必要性が有るかないか」を考えましょう。土砂災害特別警戒・警戒区域にある場合は、原則として安全な場所への避難が求められます。区域外でも我が家にがけ崩れがあった場合に影響が想定される場合は、避難が望ましい場合があります。

 急傾斜地の崩壊(がけ崩れ)の場合、がけの高さ、角度、地質や保護状況によりますが、がけの2倍ほどの距離までは土砂が到達する場合があります。1階の一部のみへの土砂到達の場合でも、崖に近い部屋の1階で過ごす、寝ていると被害を受けやすくなることがあります。

 特に土石流では、がけの近傍ではなく渓流に沿って幅広く、また下流側にまで被害が及ぶことがあります。土砂災害特別警戒・警戒区域やその付近は要注意であり、2階への避難でも巨石や土砂混じりの土石流により家屋ごと損壊するおそれもあります。早期に、安全な場所への避難が必要であるといえます。土石流では、一定以上の雨量の場合などでは区域指定された範囲より下流や周囲に及ぶ可能性もあることに注意が必要でしょう。

2022年台風15号でハザードマップ警戒区域外にて土石流に遭ったとみられる住宅
(静岡県磐田市:横山芳春撮影)

在宅時の備えや寝る場所を確認

 土砂災害が懸念される地域で、2階以上に被害が及ぶ可能性が低い場合では2階以上への避難が有効です。著しい豪雨や周囲で冠水などがあって避難が難しい場合などは、がけと反対側の2階に避難することで被害を軽減させられる場合があります。避難が間に合わずにがけ崩れが切迫している場合に、命が助かる可能性の高い行動になるでしょう。寝る場合にも、普段は1階で寝ているという方も、大雨が想定されるときは2階の崖と反対側の部屋で寝ることをお勧めします。

いざという時に二階に逃げ込んだはいいですが、全く備えがなく困ったということになると安心できません。在宅避難時の備えは確認しておきましょう。在宅で避難する際の備えとしては、停電、断水の可能性を考慮することが望ましいでしょう。長期的な避難にはなりづらいこと、台風接近や線状降水帯情報などで豪雨の可能性が考えられる際は、スマートフォンやモバイルバッテリーの充電のほか、布団、飲食料、貴重品などを2階に移動しておくといいでしょう。念のため、安全な場所に避難する際と共通で持ち出し袋を準備しておくことも有効です。調理せずに食べることができる栄養補助食品やペットボトル飲料があると助けになるでしょう。持病の薬なども常備しておきましょう。

 

避難を行う場合は避難先・ルートの確認を

 安全な場所に避難する際は、避難先とそこまでのルートの確認が必要です。土砂災害ハザードマップで、土砂災害に対応した避難所を確認しましょう。行政が指定する学校などの指定避難所以外でも、安全な場所のホテル、旅館、知人、親戚宅なども避難先になります。あらかじめ、避難先の確認とともに、我が家はどのタイミングで避難する必要があるのか、家族で話し合って確認しておきましょう。

 自治体から避難指示、また高齢者などがいらっしゃる場合は高齢者等避難の情報が発表された際には安全な場所に避難が必要です。家族でどこにどうやって避難をするかを事前に確認し、必要な持ち出し袋を準備しておくことが望ましいです。避難場所とともに、避難経路を含めて確認しておきましょう。

 避難ルートは可能な限りがけなどから離れた土砂災害の影響を受けにくいルートが望ましいでしょう。豪雨が発生している際は、冠水や水害が既に発生している可能性にも注意が必要です。がけ崩れなどで通れなくなることも想定されます。可能であれば、複数の避難ルートを準備しておきましょう。暗い中、足元が悪い状態での避難の可能性もあるので、事前に歩いて確認しておくことをお勧めします。

避難情報について(内閣府 

 

 備えとして、避難所など安全な場所に水平避難する必要がある方は、持ち出し袋の準備をしましょう。先のしれない大地震からの避難とは異なり、水害からの避難は一晩というようなケースもあるでしょう。地域一帯の大洪水と言う場合でなければ、安全な地域では水・電気などインフラなども問題なく稼働していることもあります。安全な場所の親戚・知人宅やホテルなどであれば備品もあり、近隣が危険な状態になる前にいち早く避難が重要です。持ち出し袋となるリュックサックなどは豪雨の中の移動を想定して防水のものが望ましく、食料、飲料、着替え、常備薬、スマホの充電器等などは最低限備えておきましょう。

 自宅に避難する際、垂直避難をする際に備蓄を1階に置くと、浸水時に約に立たないことがあります。浸水しない2階以上に設置し、必要があれば布団なども事前に2階以上に移動させ、夜間の浸水に備えることが望ましいでしょう。水道が使えないことや停電などもあるので、モバイルバッテリー、飲食料などがあると安心できるでしょう。洪水で数日や数週間など水が引かないことが想定される場合、地震への備えと合わせてある程度の備蓄があると安心できます。避難や移動をするときの注意点は「冠水・内水氾濫した場所を歩く際の注意点まとめ」もご活用下さい。

 どこに何日間避難する必要があるか、また避難する必要はないか、そして家族構成を考えた備蓄や備えが必要です。乳幼児がいる場合には紙おむつや離乳食なども必要でしょうし、普段とは違う環境で過ごす際の配慮も必要な場合があります。個々のケースを踏まえた準備を進めましょう。

火災保険の「水災特約」をチェック

 住宅の火災保険では、オプション(特約)で、水害や土砂災害に関する補償である「水災補償(水災特約等とも)」を付加することができます。台風や暴風雨、豪雨等が原因の洪水や土砂災害、雪解けによる融雪洪水、台風接近時等の高潮などが対象となります。火災保険の基本プランに入っていて外すことができるケースなどがあるので、よく保険代理店と確認しておきましょうなお、水災補償の支払い対象となるのは、大雨に起因する「建物評価額の3割もしくは床上浸水、もしくは地盤面より45センチメートルを超える浸水」という条件となります。こうした条件に当てはまらない限り、原則補償されません。

内閣府のまとめでは、2015年時点で火災保険は82%、水災補償は66%が加入しているとされます。土砂災害で一定以上の被害を受ける可能性がある際には、水災補償への加入を検討するといいでしょう。なお、地震の揺れや津波、火山噴火等による被害は火災保険とセットで加入できる「地震保険」の対象であり、水災補償では支払い対象とはなりません。

 なお、台風や災害後には「火災保険で修理できます」といった類の訪問販売員が押し寄せることがあります。実際には保険が使えない場合や、高額請求をされたなど災害後の「悪徳商法」によるトラブルがあります(国民生活センター )。「火災保険で修理」というワードが出たら特に要注意。信頼できない業者は家に入れない、屋根に上げない(わざと損壊させる場合もあります)、すぐに契約せず家族知人や公的機関に相談するなどの警戒が必要です。

土砂災害の前兆を知りましょう

 土砂災害には、前兆現象がみられることがあります。都市部近郊で起きやすい急傾斜地の崩壊(がけ崩れ)では、下の図のような、①がけにひび、亀裂が入っている②がけから小石がぱらぱら落ちてくる③わいていた湧水が止まった、濁った④がけから水が噴き出してきた、などの前兆現象がみられることがあります。

 これらのがけ崩れの前兆現象や既に崩れ始めている場所を発見した場合、自治体や管理者、所有者などへの通報、連絡をすることが望ましいです。平時から敷地や良く通る場所の崖は注意しておき、特に大雨の際や地震後などに異変がないか確認しましょう。崩れるに至らずとも、落石や倒木などもあるので、大雨の翌日などは崖側に気を配って歩きましょう。

 2020年に発生した、逗子市マンション敷地のがけ崩れの事例では大雨や地震が逢った後ではないようですが、一部報道で、先日にがけに亀裂が発生していたといわれています。道路を通行禁止にする、または崖際を通行しない、などを行っておけば、被害を軽減できた可能性が有るでしょう。ただし、必ずしも前兆現象があるわけではないので、前兆現象がない=土砂災害が起きない、という誤解のないようにお願いします。

 土砂災害―急傾斜地の崩壊(がけ崩れ)の前兆となることがある現象
(だいち災害リスク研究所監修)

 

台風シーズンを前にチェックしたい「我が家を土砂災害から守る七福神チェックリスト」

 台風シーズンを前にチェックしたい我が家を土砂災害から守る七福神チェックリストは以下の通りです。

  1. ①土砂災害ハザードマップを確認
  2. ②周囲にがけ、斜面、擁壁がないか確認
  3. ③避難の必要性をチェック
  4. ④在宅時の備えや寝る場所を確認
  5. ⑤避難を行う場合は避難先・ルートの確認を
  6. ⑥火災保険の「水災特約」をチェック
  7. ⑦土砂災害の前兆を知りましょう

是非、豪雨があって慌てる前に、今のうちにチェックをお願いします!

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■記事執筆者(災害リスクカルテ監修)

横山 芳春 博士(理学)
だいち災害リスク研究所所長・地盤災害ドクター

地形と地質、地盤災害の専門家。災害が起きた際には速やかに現地入りして被害を調査。広島土砂災害、熊本地震、北海道胆振東部地震、山形県沖地震、逗子市土砂災害等では発生当日又は翌朝に現地入り。
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