冠水・内水氾濫した場所を通る際の注意点まとめ 実際に浸水した地点のリスクを動画で解説

  • Update: 2023-06-04
冠水・内水氾濫した場所を通る際の注意点まとめ 実際に浸水した地点のリスクを動画で解説

冠水・内水氾濫した場所を歩く際の注意点まとめ

 2023年6月2日日本の南海上を東に向かう台風2号や梅雨前線の影響で東海地方・関東地方など日本各地で豪雨が発生しました。気象庁は2日午前、関東甲信地方に線状降水帯の予測情報を発表、午後には関東地方でも激しい雨雲が通過していました。雨雲レーダーでは、千葉県北西部は16時代から17時代に約5~10㎞ほどの幅で、80㎜/h以上という表記の著しく強い雨が降っていたとされています。大きな川が近くにない地域でも冠水や内水氾濫が多く発生していました。筆者(だいち災害リスク研究所所長:横山芳春・理学博士)は、千葉県松戸市内で内水氾濫があった現場を実際に確認、どのようなことが発生したか調査を実施し、リスクへの教訓となりうる動画を撮影しました。

 その結果から、冠水・内水氾濫した場所を歩く際の注意点について動画とともにまとめてみます。

2023年6月2日18時の雨雲レーダー(Yahoo!天気より)

冠水・内水氾濫の状況

 確認した冠水・内水氾濫があった地点は、千葉県松戸市内の、江戸川など大きな川のある低地側ではなく、高台の台地側で周囲より少し低くなっている場所でした。17前からの豪雨で周囲の道路に水が溜まり始めていたこともあり、あらかじめ地図情報などで冠水の可能性が高いと考えていた付近の調査を実施しました。

 確認できた範囲で最も浸水深が大きかった地点は深さ約32㎝ほどありました。集中的に調査を実施した地点は、地形区分では「台地」と、「(台地部の)凹地・浅い谷」の境界付近でした。17時前後には周辺の車両交通の抜け道のようになっていることから各方面から車が通っていましたが、交通整理や通行禁止措置などはありませんでした。

 集中豪雨の際に急激に水位が高まっていく内水氾濫では、公的な交通規制などが間に合わないことがあります。既に車が1台立ち往生していましたが、冠水地点を無理やり通ろうとする車、迂回しようと豪雨のなかUターンする車、通り抜ける歩行者、自転車の方などが行きかっている状況でした。

冠水・内水氾濫リスクを動画で解説

 冠水・内水氾濫があった際にはどのようなリスクがあるのでしょうか実際に歩いた動画で解説します。浸水深は最大32㎝ほどでしたが、スタッフの目盛りを見ると水面からわずか5㎝程度しか見えないことがわかります。足元は下の動画のような視点となります。車で通行しようとする方もいますが、どの程度の水深かを目視で知ることは、わかりやすい目印となるものがないと非常に難しいと言えます。

 濁った水で足元などは全く見えず、長靴も水没する浸水深です。強い雨が打ち付けていると、なおさら様子を把握することが難しくなるでしょう。暗い時間であれば一層見づらくなります。水の濁りにより、地面・路面がどうなっているかは到底知ることができない状況です(動画は事前にあらかじめ十分な安全を確認したのちに撮影しています)。

 そのような冠水地点を、やむを得ず通る必要がある人々は自転車で、また徒歩で足早に通り抜けていました。このような光景は、冠水している地点を写す報道映像でもよく目にすると思いますが、これはときに非常に危険なことがあるといえます。

 それは、足元がどうなっているかわからないことです。道路脇では側溝などと道路との区別がつかずに落下してしまう場合や、同じく歩道と車道の境目が見えない場合、障害物や落としていった落下物などがあることが想定されます。道路の脇は側溝・溝があることがあるので、特によく知らない道を通行の際は道路の端を避けるといいでしょう。車でも、通行する際や冠水地点を切り返す際に、上から見えない側溝に脱輪することが考えらえます。

 さらに冠水時に特有な危険性として、大雨が降ると下水管内の排水の圧力でマンホールのふたが飛んで外れてしまうケースがあります。鉄(ダクタイル鋳鉄)製で40~100㎏もされるマンホールが飛ぶと非常に危険です。最悪の場合は蓋が外れているマンホールに落とし穴のように落下することがあります。そこまでいかなくとも、マンホールの穴から水が噴き出してくる場合や、隙間ができて水が大量に流出、また吸い込まれていくことや足を取られることに注意が必要です。

 下の動画ではやや水位が低くなっているときのもので、渦を巻いて水が飲みこまれることでマンホールがあることがわかります。しかし、水位が高い状態で水の吐き出しや吸い込みがないと、全く気付かないこともあります。側溝であれば道路の脇を歩かないことで回避できますが、マンホールは道路の真ん中などにあることもあり、歩きなれていてもどこにマンホールがあったかは覚えていないでしょう。

 マンホールのふたは、近年では安全対策は進んでおり、豪雨時にも圧力で外れにくいものに更新が進んでいます。しかし、一般社団法人日本グラウンドマンホール工業会の2021年の記事によると、約1600万基の下水道マンホールのふたのうち、30年以上経過した旧式のものは約350万基あるとされています。更新ペースは年間10万基ほどのため、単純計算でも30年以上かかるとみられます。

 下の動画は、同じく松戸市内で2018年9月1日の豪雨時の冠水・内水氾濫があった様子です。冒頭に四角い金属製の蓋がズレて勢いよく水が噴き出している様子がわかります。マンホールでない形状でも、水路・暗渠・側溝等に蓋がある場合には、同様のスキマや落とし穴状態になってしまうことがあります。

 次の動画は、雨水浸透桝の樹脂製マンホールが外れていた事例です。このケースも気づかないと小さな落とし穴のように落ちてしまいます。ここでは浸水深が15㎝程度ですが、濁った水では穴の位置が見えないことがわかります。大人用の深い長靴で水が入らずに歩ける深さでも、側溝や落下物などがないかを探る為にも、傘などで足元を探るか、ゆっくりと足元を確かめながら歩くことが良いでしょう。

 冠水地点を車が通ると波(引き波)が起きます。波は車両通行があった地点から周辺に伝わっていきますが、車が大型、また速度が速い場合には波が大きくなる傾向があります。海や川で、大きな船や早い船が立てる引き波が大きいことと同じです。このような脇を人が歩いてると、波によって足元をとられたり長靴が浸水することなどがあります。実際に動画撮影時でないときの速い車の走行時の波で長靴が水没しました。とくに自転車では横から波を受けると転倒なども考えられます。

 一方で、通行する車の側も、足元がわからない冠水地点を早く通り抜けたい心理もあるでしょうが、浸水深がわからない場所に突入することは危険です。走行可能な水深でも落下物、浮遊物やあるケースや、歩行者、自転車等周囲への影響がないように気を付けたいものです。

 冠水している地点を歩く際、どういった靴が望ましいでしょうか。長靴は少々の冠水であれば良いですが、浸水して水が入ってしまうと急激に歩きにくくなり、長靴が水没するほど深い場所では脱げやすくなります。他方、靴が濡れたくないからと裸足で歩くことは、見えない異物で足を負傷する可能性もありますので控えましょう。汚水などが混じることがある氾濫水は、非衛生的であることもあります。実際に、水が引いた地点では潰れた空き缶、プラスチック片、金属片など様々なもの、ゴミが滞留していました。脱げにくい運動靴などで歩くことが望ましいでしょう。

 車では、冠水が始まっている地点を走ろうとすると、水深がどのくらいあるか掴みづらいこともあり、気づかないうちに故障や走行不能な水深の場所に突っ込んでしまうこともあります。冠水がある場合は慎重に通行可否を判断しましょう。行けると思うっても、実際には想像以上に水深が大きいことがあるでしょう。アンダーパスは人為的な凹地であり冠水リスクの高い場所といえます。中央部は特に深くなっている構造です。通行可否の電光掲示板や、路面に浸水深の目安がある場合には参考にしましょう。

冠水・内水氾濫のあった場所をマップで見る

 確認した冠水・内水が著しかった地点は、ハザードマップや地図情報から読み取れることはあるでしょうか。

 松戸市では内水ハザードマップとして、1時間当たり雨量71ミリ、105ミリ、153ミリの3種類のマップが公開されています。最もシビアケースの1時間当たり雨量153ミリの内水ハザードマップで見ると、冠水・内水が著しかった地点(赤丸)の予想される浸水深は0.3m以上~0.5m未満となっていました。周囲より想定される浸水深が大きいことがわかります。正確な雨量は不明ですが、確認できた最大の浸水深32㎝はこの範疇にあります。なお、雨量71ミリの内水ハザードマップでも0.3m未満の想定でした。

 このように、内水ハザードマップで色がついているところで、さらに想定される浸水深が大きい場所は、豪雨の際に実際に浸水深が大きくなる可能性が有り、要注意であるといえるでしょう。

冠水を確認した地点の内水ハザードマップ(松戸市内水ハザードマップとし)

 自治体によっては内水ハザードマップが整備・公開されていないケースも多くあります。また、ハザードマップで色がついていない=浸水が想定されていない地域でも、浸水がないわけではありません。土地改変や人工物の設置、想定以上の雨など様々な理由で、「想定外」が起きえます。ハザードマップに加えて、国土交通省国土地理院が公開している「地理院地図」が参考になります。とくに「自分で作る色別標高図」機能は、閲覧範囲の高低差が色で表示できるので、標高が低く水が集まりやすい場所を確認できます。

 冠水・内水が著しかった地点(十字印)付近は、周囲に標高が高い場所(赤色・オレンジ色)があり、その中にある標高が低い場所(黄色)、すり鉢の底のような凹地にあります。このような場所では、水が四方から集まってきますが流れていく先がなくなるため、水が溜まりやすい場所であるのです。

冠水を確認した地点の色別標高図(地理院地図

 地理院地図では、もう一つ、調べたい場所での高さの断面を見ることができる「断面図」機能もお勧めです。対象地付近のメイン道路沿いの断面を描いてみると、下の図の通り冠水・内水が著しかった地点(地図で十字印、断面図でオレンジ色の丸)が周囲から見て最も低い、すり鉢状のくぼ地にあることがわかります。周囲から1.5mほど下がりますので、現地を歩いて見えると低くなっていることが体感できます。車で何気なく通っていると、気になるような坂ではないのでそこまで気になりませんが、断面図で見ると明確です。「自分で作る色別標高図」機能と合わせて参考にできます。

冠水を確認した地点の色別標高図(地理院地図

 

実際に浸水した地点で見えたリスクとは?

 雨雲レーダーで著しい集中豪雨が接近していた場合や、車で走行してこれまで感じたことがないような豪雨が続いた場合、場所によってはこのような冠水・内水氾濫が起こっていることもあるでしょう。慣れない土地や、夜間であれば一層危険性に気づきづらいものがあります。安全な場所で待機・また退避することや、十分な情報収集、地図類の確認や安全確保が望ましいでしょう。

以上、実際に浸水した地点で見えてきた、冠水地点を歩く際のリスク・教訓についてまとめます。

  • 集中豪雨があると水位は一気に上昇していく場合がある
  • 交通規制などが間に合わないことがある
  • 濁りで足元や浸水の深さが見えない
  • 蓋が開いたマンホールや側溝と道路の区別がつかず落ちる危険性がある
  • 傘などで足元を探るなどゆっくり歩く
  • 道路の端には側溝がある場合あるので避ける
  • 車が通過する際の波に注意(特に自転車)
  • 長靴は水が入ると歩きづらく脱げることも、裸足はNG
  • 内水ハザードマップがある場合は参考になる
    (特に想定浸水深が大きい場所に注意)
  • 「地理院地図」の高低差を調べることも参考になる

今回の範囲では確認できませんでしたが、このほかの注意点としては下記のようなことがあります。

  • アンダーパスの通行は避ける・車の水没に注意する
  • アンダーパスの電光掲示板の指示や浸水深の表示を活用する
  • 自動車だけでなく、歩行者用の地下道や地下街の冠水にも注意
  • 地下街・地下通路で豪雨に遭ったら速やかに地上に退避する
  • 地下街・地下通路からの避難の際はエレベータは使わない(停電で停止のおそれ)

 以上、これからの梅雨・台風シーズンに向けて、冠水・内水氾濫があった場所をやむを得ず通行する際の注意点についてまとめました。

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■記事執筆者(災害リスクカルテ監修)

横山 芳春 博士(理学)
だいち災害リスク研究所所長・地盤災害ドクター

地形と地質、地盤災害の専門家。災害が起きた際には速やかに現地入りして被害を調査。広島土砂災害、熊本地震、北海道胆振東部地震、山形県沖地震、逗子市土砂災害等では発生当日又は翌朝に現地入り。
現地またはスタジオから報道解説も対応(NHKスペシャル、ワールドビジネスサテライト等に出演)する地盤災害のプロフェッショナル。