7月は水害に注意!七夕にあった豪雨災害「七夕水害(七夕豪雨)」に学ぶ

  • Update: 2023-07-07
7月は水害に注意!七夕にあった豪雨災害「七夕水害(七夕豪雨)」に学ぶ
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7月は水害に注意!七夕にあった豪雨災害「七夕水害(七夕豪雨)」に学ぶ

 2023年、7月初頭は九州での線状降水帯発生の影響などで、九州・中国地方などで豪雨災害が発生しました。関東地方などでも大気が不安定な日が続き、急な雷やひょう、豪雨などに見舞われた方もおいでになるでしょう。7月は梅雨前線に加えて台風の発生もあり、豪雨災害が発生しやすい時期であるといえます。例えば、月別に「日降水量100㎜以上」の月別回数を見ると、1977~2006年では9月に次いで7月が多くなっています

 7月7日の七夕には、織姫と彦星の逢瀬を伝える七夕伝説があります。怠けていたために天帝に離れ離れにされた二人は、七夕の日だけ会うことを許されるという物語です。しかし、七夕の日に雨が降ると二人は天の川を渡れることができずに涙し、それが「催涙雨」となるという伝説もあります。なお、東京の過去30年間の記録では、7月7日の雨の確率は36.7%とされています(東京管区気象台)。

 七夕には、伝説だけでなく過去に大きな豪雨災害がありました。約50年前の1974年7月7~8日に三重県、静岡県を中心とした太平洋側に大きな被害をもたらした「七夕水害(七夕豪雨とも)」です。ここでは、七夕水害(七夕豪雨)がどんな災害だったか、各地でどのような被害をもたらしたか、また課題や教訓は何か紹介します。

月別の「日降水量100mm以上」の傾向(気象庁

七夕水害(七夕豪雨)とは?

 七夕水害は、上陸こそせずに日本海を東進した1974年台風8号が梅雨前線を活発化させたことで、特に太平洋側の四国から東海・関東地方南部にかけて大雨をもたらしました。全国で死者145名、行方不明者1名、負傷者496名、住家全壊657棟、半壊1,131棟の被害があったとされます(気象庁)。特に被害が大きかった静岡市では、7月7日の晩から8日にかけて1時間当たりの雨量が40~80㎜近くに達する雨が続き、7月7日9時から24時間の降水量は508.0mmに達しました。

 特に被害が大きかった静岡県では昨年9月の台風15号で大きな被害があった静岡県の現地調査の際、地元のお年寄りお二人に話を伺いましたが、『大きな被害はここ数十年なかった七夕豪雨以来だろう』という証言もありました(コラム:台風15号による土砂災害 警戒区域外でも発生 ~台風15号現地調査結果)。地域の方も、歴史的な豪雨として記憶に残っておいでであることを感じました。

 七夕水害は来年で50年を迎える半世紀前に起きた水害ですが、都市化が進んだ時代に発生した都市型水害としての側面もあり、近年激甚化する都市での水害において教訓となる点も多数あるものと考えられます。特徴的な被害があった、静岡県静岡市・神奈川県横須賀市を例に紹介します。

七夕水害における静岡市の雨量(気象庁HP

静岡県静岡市における被害

 静岡市では、七夕水害は特に「七夕豪雨」という名前で知られており、死者27名、床上浸水11,981戸、床下浸水14,143戸という被害をもたらし、静岡市清水区旧清水市)を舞台とした漫画・「ちびまる子ちゃん」でも七夕水害の描写があります(静岡県)。静岡では観測史上最大の24時間雨量508㎜という激しい雨が降りJR静岡駅より北側、安部川より東側一帯の広い範囲に振った雨水は、清水区の市街地を抜けて清水港に流下する巴川流域で広く洪水が発生したものです。巴川は平野部で川の勾配が小さいことや、広い流域の水が集まりますが、草薙駅付近より下流側では、海側に日本平があるため狭くなった平野部を抜けていくことなどから、水害が起きやすい流域であると考えられます。

 この被害を受けて、静岡県と静岡市では総合治水対策を進めました。まず、巴川から流れを分流させ、市街地を通さずに直接太平洋側に放水するための「大谷川放水路」が設けられました。七夕豪雨のあった1974年には建設が開始され、25年後の1999年に完成、巴川の水位を下げて、下流部の被害を大きく軽減(静岡県)するとされています。このほか、遊水地の整備、学校の校庭や公園での水の貯留などの水害対策が進められています。

静岡市における水害対策(放水路)の例(今昔マップに追記)

 このような対策が進められてきた静岡市の巴川流域ですが、昨年2022年の台風15号でも再び水害に見舞われています。巴川の破堤にまでは至っていませんが、静岡市内で床上浸水が4,462棟(葵区600棟、駿河区131棟、清水区3,731棟)、床下浸水が1,762棟(葵区560棟、駿河区183棟、清水区1,019棟)発生しています(静岡市)。理由の一つとして、静岡の24時間雨量は七夕水害の8割程の416.5㎜(観測史上2位)でしたが、1時間あたりの最大雨量は七夕水害の83㎜を超える107㎜であったことや、満潮時間と重なって被害が大きかったことなどが考えられます。

発生年・災害名 1974年七夕水害 2022年台風15号
1時間あたりの雨量 83mm 107mm
24時間雨量 508mm 416.5mm

参考:静岡放送気象庁

三重県伊勢市の被害

 三重県伊勢市では、七夕水害の際に市内を流れる勢田川が氾濫するなどで、伊勢市内で床上浸水3,224棟、床下浸水10,924棟の被害を生じました。累積雨量495.6mmの豪雨による災害でしたが(伊勢市)。この被害を受けて、1975年に勢田川は国が管理する一級河川に指定(もっとも新しい指定)され、海に近い低平な地域であることから川底の掘り下げや防潮水門、排水機場、堤防の整備などの水害対策進められました。

 こうした様々な水害対策が進められてきた伊勢市内ですが、2017年に発生した、平成 29 年台風 21 号によって、家屋浸水と店舗浸水を合わせて約 1,800 棟以上の浸水被害が発生したとされています(伊勢市)。伊勢市内は最大で1時間あたり80mm、また七夕水害を超える累積雨量584mm(観測史上最大)を観測しています。伊勢市は、地域として背後の山地を流域とする河川が複数流れる、海に近い低平な街であり、水害の影響を受けやすい地域であると考えられるでしょう。

神奈川県横須賀市における被害

 神奈川県横須賀市では、七夕水害による被害は床上浸水2855戸、床下浸水1648戸とされており、被害発生は水田などの遊水地が失われ、流域の山が削られて住宅化が進んだことによるとされています(横須賀市)。七夕水害後、川底の掘り下げや護岸改修、支流にポンプ場を設置するなどの水害対策が行われています。下の図は、災害履歴を示した地です。薄い茶色に塗られた場所が、七夕水害で浸水のあった地域です。地図の左側中央から右下に向かって続いている塗色が、三浦半島最大の河川、平作川沿いです。大きな川沿いだけでなく、大きな川に注ぐ小さな川(暗渠化されている部分)や、近くに川がない場所での水害履歴(小河川の水害・内水氾濫)があることも特徴です。

 横須賀市は高低差の大きな三浦丘陵に位置していることから、多数の土砂災害も発生しています。下の図で茶色の丸が七夕水害の際のがけ崩れです細い谷筋が広がるような地形では、谷筋の冠水と、両脇の丘陵地での土砂災害が発生したことがわかります。当日の降水量は最大で1時間あたり70mm、総降水量250.5mm横須賀市)という豪雨があったことと、地形的な要因、また開発や遊水地の消失などが重なったことが考えられるでしょう。

 地理院地図に「災害履歴図(水害)」を表示

七夕水害の教訓・水害への備えは?

 以上の通り、七夕水害(豪雨)という水害が各地で発生したこと。降水量をもとに、地形や地域的な特徴によって河川の氾濫や土砂災害などが起こるということが教訓としてあります。ハード面の対策が進んでも想定を超える雨量、特に1時間に80㎜や100㎜を超えるような雨では大きな被害をもたらすことがあります。今年の6~7月の冠水事例などでも、雨雲レーダーでは100㎜を超えるような降雨が各地でみられました。

 静岡市、伊勢市の例を含めて、過去に水害が発生した地域では、国や自治体により様々な対策が進められても、想定を超えた豪雨があった場合には、再び水害が発生する可能性がある認識が必要です。また、降水量の多い降雨は年々増加傾向にあるため、過去に水害が発生していなかったから安全、ということも言い切れません。地域ごとに起きやすい災害を知り、豪雨があったときにどのような被害を受ける可能性が有るか、ハザードマップなどを参考に考えておくことが必要でしょう。

 しかし、ハザードマップは対象となっていない中小の河川や、排水不良で川がない場所でも起こる内水氾濫のマップが整備されていない、最大の想定降水量で作成されていないということがあります。ハザードマップで色がついていない=必ず安全ではありません。周囲の高低差や中小河川からの距離、高低差などを踏まえて、水害リスクを考慮する必要性が有るといえます。土砂災害も同様で、土砂災害(特別)警戒区域の外でも、がけ崩れが起こることがあります。

 同じ地域でも、水害の備えは高低差による立地や建物の基礎高、階数などによって1軒ごとに違います。水害リスクの確認方法や、我が家を水害から守るポイントについては、「我が家を水害から守る七福神チェックリスト 梅雨・台風シーズン前の7選」の記事もご参照ください。

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■記事執筆者(災害リスクカルテ監修)

横山 芳春 博士(理学)
だいち災害リスク研究所所長・地盤災害ドクター

地形と地質、地盤災害の専門家。災害が起きた際には速やかに現地入りして被害を調査。広島土砂災害、熊本地震、北海道胆振東部地震、山形県沖地震、逗子市土砂災害等では発生当日又は翌朝に現地入り。
現地またはスタジオから報道解説も対応(NHKスペシャル、ワールドビジネスサテライト等に出演)する地盤災害のプロフェッショナル。