コロナ禍においても、いつ私たちを襲ってくるかわからない大地震。
今この時も、建物の耐震性の重要性が叫ばれているのはもちろん、建物の建っている地盤についても注目が高まっています。
地震時の「揺れやすさ」は地盤調査だけではわからない
当然、地盤は強い方が安心です。しかし、実のところ、以前から一般的に行われている地盤調査の方法では、地震に遭った際の「揺れやすさ」は測れないのです。
・一般的な地盤調査の目的
一般的には、「スウェーデン式サウンディング」という種類の地盤調査を行います。これは重りを載せた鉄の杭で、「地盤の固さ」を調べることを目的とした調査です。多くの場合、建物の周辺の4隅や中心付近などを検体にして、どの箇所もまんべんなく固さが出ているかどうかを調査します。ここでどこか一端の地盤が柔らかいと、何もない状態でも建物が傾くことがあります。これを「不同沈下」と呼びます。スウェーデン式サウンディング試験は、この不同沈下のリスクに対する地盤調査です。
そのため、従来から行われている一般的な地盤調査では、大地震の際に「揺れやすい地盤かどうか」はわからないのです。
・ハザードマップの落とし穴
国土交通省のポータルサイトでも公開されているハザードマップ。任意の地域について、今後想定される地震やその被害範囲、そして地域別の建物被害予測図、地盤の液状化リスクなどを調べることができます。
しかし地震の際には、同じ地域であっても表層の地盤の状態や盛り土の有無などにより、宅地ごとに揺れ方は異なります。実際2016年熊本地震の際にも、たった数十メートル離れただけで住宅の倒壊の有無などの被害状況は大きく異なりました。
つまりハザードマップをもってしても、指定の土地が地震の際に揺れやすい地盤かどうかまでは調べることができません。
建物の揺れやすさは「微動探査機」で調べる
・高性能地震計「微動探査機」って?
「微動探査」は、災害について研究している国立研究開発法人 防災科学技術研究所によって開発されました。平常時の地盤のわずかな振動を専用の機器で感知することにより地盤の動きを観測する調査で、地盤調査の画期的な手法として近年注目を集めています。
調査で使用する「微動探査機」は、スウェーデン式サウンディング試験やハザードマップだけではわからない、その宅地の地震時の「揺れやすさ」が調査できる高性能の地震計なのです。
・人の感じない揺れから、建物の揺れ方を予測
微動探査の具体的な調査方法は、敷地内の地面に専用の微動探査機を置き、数十分間そのまま設置しておきます。設置している間に、人間には感じられないわずかな揺れを機械が感知し、その揺れの状態から「地震の際に揺れやすい地盤かどうか」が判定される仕組みとなっています。
・観測方法と特徴
微動探査は、地面を掘削せず探査機を地面に置くだけの非破壊検査です。そこで測定した情報が計測後すぐに防災科学技術研究所にデータを送り解析をします。改ざんの心配もない正しい情報を得られます。後日カルテ形式で調査結果が出力されます。
カルテの内容は、指定の宅地ピンポイントの地盤状態を示すオリジナルのもの。調査地の地盤の揺れやすさや表層構造、そして地震の揺れの振幅や周期と地盤との関係を記載した「卓越周期」などが数値化したものがカルテになります。
地盤に合ったリノベーションで強い住宅に
・地盤に合った耐震改修で非常時対策
「微動探査」によって得た結果から、その宅地の地盤補強や、地盤に合った建物の基礎・構造の補強方法に関するアドバイスを受けることができます。建物のリノベーションの際には、「微動探査」を含めて専門の業者に相談してみることをおすすめします。
・デザイン・設備との同時改修でメリットが
耐震補強のための改修工事は、デザインや設備を更新するリノベーションの工事と併せて実施すると効率が良くなりメリットも多いでしょう。
壁や床の解体も、一度で済ませられれば費用や打ち合わせなどの時間短縮、そして工事費用も圧縮でき合理的です。
耐震性能に不安がある場合はもちろん、デザインや設備を変えたい、と考えているなら、まずは建物の根幹となる地盤や耐震の調査を検討してみてはいかがでしょうか。
そもそも、見た目の損傷と耐震改修はリンクしている場合がほとんどです。
例えば中古住宅に度々みられる、建物の基礎のクラック(ひび割れ)。「地窓」と呼ばれる床下換気口付近のクラックの中には、建物の重さで地盤沈下を起こして生じているケースも考えられます。
こうした場合のリノベーションには、既存の基礎に鉄筋を配筋し、床下全面にコンクリートを打設して建物を補強する方法などがあります。そしてこの際には1階の床をすべてはがし撤去する工法が採用されますので、デザイン・機能面では床の張替えや床下の断熱材の打替えと同時に施工すると、工事の効率も良くなります。
一般的な改修だとクラック補修や断熱材交換、床の張替えなど項目が分かれ、いわゆる「点」で行う工事ですが、地盤の状態がわかっていれば、気になる部分の工事でなく建物の基礎、そして場合によっては地盤改良を含めた根本の原因にアプロ―チできるので、何度も工事をし直さずに、より効果の高い改修ができるようになるのです。
・強く美しいリノベーションで永く住まう
地盤と相性が良く地震の際に損傷しにくい建物は、見た目にも構造的に安定していることから、おのずとデザイン面でも均衡のとれた美しさを感じさせることができるものです。
建物を残しながら自分達の生活に合った状態に更新していくリノベーションという行為は、大切な資産を永く愛用できるものにする素晴らしい行為と言えます。
「土地を買う」ことは、「地盤を買う」こと。既存住宅のリノベーションの際は、見た目の損傷を直して好きなデザインに変えるだけでなく、その建物の建っている地面にも着目し、強く美しい建物で永く快適に過ごせることに主眼を置いていただきたいと思います。