『構造塾』コラボ・熊本地震の教訓は?建物の耐震性と地盤の揺れ方

  • Update: 2022-04-14
『構造塾』コラボ・熊本地震の教訓は?建物の耐震性と地盤の揺れ方
災害リスクカルテ

「震度7」を2回記録した熊本地震

 熊本地震は2016年4月14日21時26分の「前震(マグニチュード6.5)」、4月16日1時45分の「本震(マグニチュード7.3)」と、28時間ほどの間に2回の震度7の揺れを立て続けに観測した地震です。前震では熊本県益城町で震度7を、本震では熊本県益城町、西原村で震度7を、熊本県菊池町、熊本市中央区、東区、西区などで震度6強の揺れを観測しています。一連の熊本地震では、消防庁のまとめによると住宅の被害が全壊が8,667棟、半壊が34,719棟、一部破損が163,500棟という甚大な住宅の被害があった地震です。熊本地震から6年が経過して、あらためて熊本地震の被害から、何が変わったか、教訓は何か、直近にあった大地震として学ぶべき点の大きい地震といえます。  

 熊本地震は、内陸直下で発生した活断層型地震として、地震の揺れによる大きな住宅の被害が特徴であるといえます。今回は、木造住宅構造計算、構造設計を普及促進している構造塾」とさくら事務所のコラボにて発信いたします。住宅の構造の専門家であり、構造塾塾長M’s構造設計代表の「構造王」・佐藤実氏と、住宅の維持管理の専門家・さくら事務所ホームインスペクター田村啓、そして立地・災害リスクの専門家であるだいち災害リスク研究所所長の横山芳春による特設動画を撮影しています。コラムでは、コラボ動画で語っている内容を中心に、熊本地震から学ぶべき点について紹介してまいります。

熊本地震で大きな被害があった熊本県益城町の住宅被害(2016年4月16日の地震当日・横山芳春撮影)

~通り1本挟んで大きな被害の差があった熊本地震

 熊本地震の現地調査は、横山が4月16日の本震当日に現地入りして調査を実施したのち、佐藤実様も独自に倒壊した家屋の調査を実施、横山と佐藤様による合同調査も実施しました。「立地」の面から見て、熊本地震の益城町において特徴的だった被害は、「通り1本挟んで建物の被害状況が全く違う」と言われるほど、ある一定の区域で住宅の被害が大きかったことです。一般的には、被害の大きな場所から小さな場所が徐々に移り変わっていくこともありますが、熊本地震では急激に被害の大きな地域がみられました。

 熊本地震の後で住宅向けに広がった「微動探査」という地盤の揺れ方を計測する調査があります(さくら事務所では「地震対策トータルアドバイス」として対応可能)。微動探査による研究の結果、いわゆる川沿いの地域にある軟弱な地盤よりも、さほど地盤の軟弱でないところ、地盤の周期が0.5秒前後といわれる地域で被害が大きかったことがわかっています。

 地盤に加えて、木造住宅では耐震基準の違いによる被害の違いもありました。日本の木造住宅は、1981年5月までが「旧耐震基準」と呼ばれる古い耐震基準、1981年6月以降は「新耐震基準」、さらに2000年6月以降が「2000年基準」とされる三世代の耐震基準があります。熊本地震では、下の図の通り左側から旧耐震基準、新耐震基準、2000年基準と倒壊・崩壊や大破といった被害は減り、無被害の住宅が増えていく傾向にあります。2000年基準の住宅は、6割ほどが「無被害」となりました。

 これを「意外と倒壊しなかった」とみるのではなく、倒壊しなかった住宅も、地盤が原因で倒壊した住宅がある場所に建っていたら同じように倒壊してしまった可能性があることに注意がいると考えられます。耐震性と、地盤の揺れやすさや、共振のしやすさなどを知った住宅づくりが大切であるといえます。

木造住宅の耐震基準ごとの被害(国総研資料より)

 熊本地震では、地盤の揺れ方の問題のほか、あまり知られてはいませんが液状化現象による大きな被害がありました。地盤が1m近く沈下して家屋が大きく傾いた事例や、ライフラインの断裂のほか、川沿いの地域の埋立地などでは、川のあった側に地盤が流動化している事例(側方流動)もみられました。液状化は建物が築浅であろうと被害を受けてしまいます。液状化が懸念される川沿いの低地や、埋立地などでは液状化を対象とした地盤調査や、事前の対策工事を行う必要があることも熊本地震の「地盤」にまつわる教訓と言えます。また、住宅の擁壁ブロック塀にも大きな被害がありました。特に、現行の基準を満たさない擁壁やブロック塀での被害が多く認められました。

熊本地震における熊本県益城町のブロック塀倒壊(2016年4月16日の地震当日・横山芳春撮影)

 これまで、大きな地震の被害があると、建築基準法の改正などの動きがありました。しかし、熊本地震という大きな被害を受けても法改正はありませんでした。これは「60%の無被害の住宅と、30%以上の住宅が軽微、小破、中破と大きな被害を受けなかった」ことが影響しているとも考えられます。6%の住宅は倒壊、または大破しているのですが、9割以上の住宅は大きな被害がなかったということです。

 耐震基準が変わった2000年を境として無被害の住宅が増えていることも事実ですが、これは法律の改正に加えて、住宅を供給する木材の流通の変化によることも考えられます。木造軸組住宅を建てる際、現場で建築しやすいように柱や壁等の部材について、あらかじめ接合部分等を一定の形状に工場で加工しておく「プレカット材」の利用が急激に広まったことにも影響すると考えられます。

 「プレカット材」の利用に伴って、接合部や金物など、また壁量の計算などをプレカット会社が推進したことで、結果的に耐震性も強化された側面もあると考えられます。プレカット利用率は、1989年には7%に過ぎなかったものが2000年には52%、2010年には1989年に7%に過ぎなかったプレカット2000には52%、2010年には87%にまで急激に上昇したとされ、2000年以降の木造住宅の耐震性強化に一役買っていることが考えられます。

木造軸組工法におけるプレカット材の利用率(林野庁HPより)

平屋のほうが地震に強い?制振ダンパーを設置すれば耐震性はいらない?

 良く言われる話で、「二階建てより平屋(1階建て)のほうが地震に強い」という話があります。熊本地震では、2階建て住宅の1階部分の変形により倒壊した家屋が目立ちましたが、平屋でも被害がなかったわけではありません。平屋には2階部分の重量がない、四角いシンプルな形状という利点がありますが、「平屋だから必ずしも強い、2階建てだから弱い」ということはありません。「平屋のほうが二階建てより強い」とだけ、計算や根拠がなく言っているような住宅では、平屋であっても十分な耐震性が確保されていないことも懸念されます。

 同じように、「瓦屋根は弱い」などのような話もあります。高い所に重量物を載せる瓦屋根が不利な点もありますが、決して瓦屋根は瓦屋根だから弱い、倒壊しているのではありません。地盤の揺れやすさや共振しやすさ、建物に耐震性があるかどうかが重要になります。「平屋だから安心」、「瓦屋根だから危ない」という単純な話だけで終わる事業者は、そもそも構造計算などを行っていないことも考えられます。

 「地震に強い住宅づくり」という根拠としては、構造計算(許容応力度計算)を行っており、「耐震等級3」の建物であるなど、適切な検討を行って建てられて耐震性のある住宅であるかに着目するといいでしょう。

さくら事務所 × 構造塾 コラボ動画の一コマ(佐藤実氏/横山芳春/田村啓)

 同じような話で、「住宅に制震ダンパーを設置したから地震に対して安心」という話を耳にすることがあります。住宅に設置するダンパーには、壁倍率を持つ「筋交い等のダンパー」と、壁倍率を持たない「制振オイルダンパー」があります。前者のダンパーは、建物の変形が起きるまでは耐力壁のような働きをして、大きな変形が始まる段階で効力を発揮するものといえるので、ある意味では「耐震」としての効果もあるということができます。その一方で、後者のダンパーは壁としての耐震性は持ちませんが、十分な耐震性がある場合には地震の揺れが小さいうちから効力を発揮し、大きな変形を建物に与えないという性質があります。

 後者のダンパーは比較的価格も安価であることから、「耐震性を高める代わりにダンパーを設置しましょう」、という事業者もみられます。既存住宅への設置も比較的ハードルが低いことから、お勧めされることも多いでしょう。十分な耐震性のある住宅では、揺れじたいを大きく住宅に伝えずに耐震性を維持することができるといえます。しかし、耐震性の低い住宅では、そもそもの耐震性がないことから、地震に対して十分な強さを発揮できないことも考えられます。耐震性の十分な住宅に設置すると大きな効果を得ることができます。

 この「耐震」と「制振」の話題を人の身体に例えると、耐震は筋力制振は柔軟性(しなやかさ)であるということができます。十分な筋力があってこその柔軟性であり、まず十分な筋力=住宅で言えば耐震性を持たせることが優先で、そのうえで柔軟性=制振ダンパーが効果を発揮すると考えると分かりやすいでしょう。

 

ダンパーの効果 「従来の制振装置」は壁倍率を持つダンパー
「制振オイルダンパー」は揺れ始めから効果を発揮する(出典:Be-Do HP)

耐震診断にまつわる課題

 建築済みの既存住宅耐震性を評価する際には、「耐震診断」を行います。耐震診断にはいくつかの方法がありますが、主に行われている「一般診断法」では、診断の方法の講習を受けた技術者が、住宅の図面を参考として目視を中心に住宅の内外、屋根裏や床下を確認して診断を行います。その結果は、大地震で倒壊する可能性があるかの4段階評価として、「評点」が1.5以上が倒壊しない、1.0以上1.0以上~1.5未満が一応倒壊しない、0.7以上~1.0未満が倒壊する可能性がある、0.7未満は 倒壊する可能性が高い、として区分けされます。

 しかし、耐震診断のチェックには様々な項目があるため、技術者の力量によっては大きな差が出てしまうことがあります。耐震診断はソフト上に項目の入力を進めていくと、結果となる評点が出てきてしまうことから、理解していない技術者が行っても結果は得られます。しかし、必ずしも実態に合っていないことも考えられ、3社くらいに診断を依頼すると、異なる結果が得られることもあります。実態を踏まえた耐震診断を行うには各項目がどのようなものか十分理解していることが必要となります。既存住宅の購入後など、リフォームを検討の際には、水回りや設備関係の使い勝手に目が行きがちですが、信頼できる業者に耐震診断を行い、必要に応じた耐震改修を行うことをお勧めします。

 また、建物のみならず建物の建っている地盤についても重要ですので、建物の建築時耐震診断の際には、住宅の建っている場所の地盤について確認し、地震があったときに揺れが大きくなりやすい地盤かを確認することになっています。そのうえで、非常に揺れやすい地盤第三種地盤)では、最低限の基準から壁の量を1.5倍に割り増しが必要なことになっています。このときの地盤が軟弱かどうかは、住宅建築時の地盤調査ではわかりません。住宅建築時の地盤調査は、建物の重さに地盤が沈下せずに耐えられるかを調べるもので、地盤の揺れの特性を調べるものではありませんでした。

 現在では、「微動探査」を行うことで、非常に揺れやすい地盤かどうかを調べることも可能になっていますので、新築時や既存住宅の耐震診断・検討を検討している際には、地盤から調べてみることも有効です。

地盤種別の区分  引用:昭和55年建設省告示第 1793号

熊本地震から6年、次のステップは?

 熊本地震の教訓をまとめると、建物の耐震性地盤の揺れ方という点で大きな課題が見えてきたことを説明してきました。2回の震度7という地震は稀有なものと思われますが、現実に起こったことであるということができます。また、建物の耐震性に応じて被害の程度が異なったこと、地盤と建物が「共振」しやすい地盤の地域で木造住宅の被害が集中したことも実際の結果であるといえるでしょう。

 新築住宅においては、構造計算許容応力度計算)を行い、可能であれば地盤の揺れやすさ、揺れ方を計測する「微動探査」を行って、耐震性を十分とすることが重要です。制振オイルダンパーは、揺れを建物に伝えずに耐震性を維持するために有効で、まずは十分な耐震性を備えたのちの導入が効果的です。

 既存住宅では、耐震診断一般診断法)は目視中心で人によるばらつきも大きいものでした。今後は、建物の「微動観測」による耐震性の計測のテストも現在進めており、今後は地盤と建物の「共振」のしやすさや実測による耐震性の目安が容易になっていくことも見込まれます。建物に振動などを与えない1時間ほどの観測で、調査する人の力量に関係なく同じ結果が出ることが見込まれております。制振オイルダンパーは、既存住宅でも十分な耐震性を持たせた後に設置すると効果が大きいです。

「微動探査」機材の一例 地面に機材を置くだけで揺れやすさの調査ができる

 「地震に強い建物」とは、建物の建つ立地と、初期性能、そして性能維持が重要となってきます。立地は、ハザードマップ地盤調査地震時の揺れやすさ・揺れ方は「微動探査」が重要となります。地震以外の災害リスクについては、さくら事務所が提供している災害リスクカルテでは、地盤・災害の専門家によりその場所の地盤に影響する地形区分およびJ-SHIS情報(実測値のある関東地方)、場合により近隣の地盤ボーリング調査データなどをもとに地盤の揺れやすさを評価しています。

 初期性能としては、構造計算許容応力度計算)、耐震等級を高める耐震等級3が望ましい)、その他壁の配置直下率制振オイルダンパーの設置など、そして設計のみならず施工の状態にもよります。性能維持は適切な維持管理、メンテナンスです。良い立地で、初期性能の高い住宅を建てても、性能維持が不十分では元も子もありません。特に外壁や防水のメンテナンスを中心に、内部結露雨漏りシロアリには要注意です。大きな地震や台風があった後には、破損や損傷がないかチェック、補修が必要な場合には早めに対応することで、初期性能を長く維持することができます。

 構造塾さまとのコラボ動画ではより深く、熊本地震の教訓について掘り下げています。耐震性と人の筋肉との比較の話、在来軸組工法は伝統工法を引きついだもの?など、様々な興味深い話を掘り下げています。是非、「構造塾×さくら事務所コラボレーション動画でご確認ください。

コラボ動画前編

 

コラボ動画後編は「構造塾」」チャンネルにて4月16日朝に公開予定です!
公開次第、共有いたします。

検討中の物件やご自宅の災害リスクを知りたい方は「災害リスクカルテ」のご検討を

災害リスクカルテ(電話相談つき)

 さくら事務所の災害リスクカルテ(電話相談つき)は、知りたい場所の自然災害リスク(台風・大雨、地震etc)を地盤災害の専門家がピンポイントで診断、ハザードマップがない土地でも、1軒1軒の住所災害リスクを個別に診断します。液状化リスクの可能性も、地形情報やハザードマップ(場合により近隣地盤データ等)から判断、建物の専門家がそれぞれの災害による被害予測も行い、自宅外への避難の必要があるかどうかなどをレポートにします。

災害リスクレポート専門家による電話コンサルティング
で、あなたの調べたい場所の災害リスクを完全サポート

  • 災害と建物の専門家が具体的な被害を予想
  • 最低限の対策や本格的な対策方法がわかる
  • 災害対策の優先順位がはっきりわかる

国内唯一の個人向け災害リスク診断サービスです。

※全国対応可、一戸建て・マンション・アパート対応可

 災害リスクカルテは、過去345件超の物件で発行しています。それらの傾向から、約47.3%の物件で何らかの災害リスクが「高い」という結果となり、液状化では36.3%と1/3以上の物件で「液状化リスクがあるという結果が得られています。

 災害リスクとその備え方は、立地だけでなく建物の構造にもよります。戸建て住宅でも平屋なのか、2階建てなのか、また地震による倒壊リスクは築年数によっても大きく変わってきます。

レポートだけではない!建物の専門家による電話相談アドバイスも

災害リスクの判定・予測をもとに専門家がアドバイス

 既にお住まいになっているご自宅や実家のほか、購入や賃貸を考えている物件、投資物件の災害リスクや防災対策が気になる方におススメです。特に、ホームインスペクションを実施する際には、併せて災害への備えも確認しておくとよいでしょう。災害リスクカルテの提出はご依頼から概ね4日で発行が可能です(位置の特定・ご依頼の後)。不動産の契約前や、住宅のホームインスペクションと同じタイミングなど、お急ぎの方はまずは一度お問合せください。