2023年 帰省時に確認したい実家の災害リスク7選
2022年の年末、2023年の年始となる今年の年末年始は、じつに3年ぶりの行動制限なしの年末年始となります。これを機に、お正月休みは久々にご実家に帰省して過ごされる人も多くなると思います。ご両親やご兄弟、ご親戚と会うという方や、逆に久々にお子様、お孫様が訪ねてくるという方もおいでになると思います。
ちょっと重い話でもありますが、これから先にご両親に災害時でも安全に過ごしていただくために、またお子様世代が不安になることのないように、災害リスクやいざというときの避難や備えについて、ご家族でお話しやチェックできる機会にもなれば幸いです。ここでは、帰省時に確認したい実家の災害リスク7選について説明します。
ハザードマップで避難の必要があるか確認
台風などで豪雨があるとき「xx市内全域に高齢者等避難」や「避難指示」という避難情報が発令された場合に、避難所などに避難をする必要があるかどうか、いつどこに避難するかを知っておくと、いざという時に慌てることがありません。まずは、ご自宅付近のハザードマップが参考になるので確認しましょう。
ハザードマップとは、災害が発生した時に、浸水などの被害が想定される場所や、災害時の避難場所などを地図にまとめたものです。豪雨があった際の水害、土砂災害や、地震後の津波が想定される際に被害を受ける可能性がある場所が記載されています。このような被害が想定される場所では、避難指示や津波警報など、対象となる避難情報・警報の発令があったときに、適切な避難が必要となります。
例えば水害の場合、床上に及ばない浸水の深さの想定や、そもそも浸水が想定されていない地域では、避難の必要がありません。また、強い洪水の流れが想定(洪水ハザードマップで「家屋倒壊等氾濫想定区域」にない」されていない場合には、床上浸水ほどの想定であれば、2階以上に避難(垂直避難)することで命を守ることができる場合があります。
下の表は、水害(主に洪水)ハザードマップを見た際、戸建て住宅(木造住宅を想定)にお住まいの方が水害で避難する必要があるかどうかの目安です。ぜひ、ご両親とご実家周辺の水害ハザードマップを見て、またご実家の建物の階高などを踏まえて、避難する必要がないか、2階以上に垂直避難でが可能か、早期に安全な場所に水平避難が必要かをご家族でご確認ください。
2階以上に垂直避難が必要な場合は、床上まで水が迫ってからの避難となると、屋内の家具が浮くことやドアが開けられないことなどで、2階に逃げることが難しくなります。浸水が想定される場合には、早期に2階以上に避難しておく、または避難できるようにしておくことと、避難した場合に必須な食料・水や生活必需品を備蓄しておくことが求められます。停電に備えた照明や、寒い時期の対策として防寒用の上着、布団なども必要です。
屋外の安全な場所に避難が必要な場合には、玄関付近など逃げるときに持ち出ししやすい場所に、持ち出し袋を準備しておくことがよいでしょう。数週間も引かないような大規模な洪水でない場合、外の環境に数日間程度避難を前提とした物が必要です。備えについては、ぜひご家族で確認しておくとよいでしょう。
集合住宅(マンションなどRC造を想定)の避難の目安は以下の表です。集合住宅の場合、居室が何階にあるかが大きく、たとえ10階建てのマンションでも、1階の部屋であれば居室内での垂直避難はできません。また、マンションでは居室が浸水がなく無事でも、地下階の電気・機械室や機械式駐車場等が被害を受け、とくにインフラの被害を受ける可能性についても留意と備えが必要です。非常用トイレ、水、食料の備えが必要です。
水害からの避難すべきかどうかについて詳しくは、逃げる?逃げない?水害に遭ったとき、あなたが取るべき正しい行動 の記事もご参照ください。
高低差のある地域では、土砂災害が発生する懸念があります。土砂災害ハザードマップで、土砂災害警戒区域、またより注意が必要な土砂災害警戒区域に該当するかのチェックが必要です。ただし、これらの区域に指定されていない場合でも、がけや斜面は大雨の際に崩れることも懸念されます。
低いがけに接している住宅では、大雨の際には2階のがけから離れた部屋で過ごすことで、万一崩れた場合でも被害をできるだけ減らすという方法もあります。ただし、土石流が懸念されている地域などでは事前に安全な場所への避難が必要になります。。
避難が必要なら?避難先・避難ルートをチェック!
水害等において、屋外の安全な場所に避難(水平避難)が必要な場合。安全な場所にあり、想定される災害に対応できる避難所などに避難をする必要があります。
ここで、避難所とは行政が指定する避難場所だけではありません。安全な場所にある親戚・知人宅、安全な場所にある旅館・ホテルなども対象になります。近隣の避難場所以外のご親戚・ご知人やホテル・旅館を含めた避難先を事前に検討しておくことも必要です。ご実家のお近くに住むご親戚など会うお正月にお話をしておくこともできるでしょう。ただし、急な避難が必要となることもありますので、親戚、知人宅の避難を想定している場合でも、近所の避難所の場所や対応する災害の種類などをチェックすることが望まれます。
避難先は、避難場所だけでなく、避難ルートも歩いて確認しておくとよいでしょう。水害からの避難であれば川の近く、道路が線路などの下をくぐるアンダーパスなど水が集まりやすい場所では浸水の懸念が、またがけや高い擁壁の近くは土砂災害の懸念もあるため、これらを避けるルートを選択します。地震後の避難では、ブロック塀や古い家屋が密集するルートを避けて避難できるルートを、できれば複数用意しておくとよいでしょう。実家のご近所にお住いの方と、お声がけができるようであればベストです。
避難のタイミングは、高齢者や体の不自由な方がおいでになる場合、「警戒レベル4・避難指示」では手遅れになる可能性があるので、「警戒レベル3・高齢者等避難」の段階における避難が必要となります。ご実家の地域の避難情報などを踏まえて、必要な避難タイミングを共有などできるようにしておくとよいでしょう。
警戒レベルと避難情報(内閣府HPより)
ハザードマップに掲載されていないリスクも注意
ハザードマップには様々な種類があります。土砂災害や津波、洪水による水害などほか、水害では台風の際に海沿いで懸念される高潮、また川がないところで大雨の水が集まって排水できないことであふれる、内水(雨水出水・内水氾濫)などのマップがあります。しかし、自治体によっては、ハザードマップが作成されていない災害がある場合があります。
水害に注目してみると、現在では想定される一番多い雨の量、つまり一番被害が大きくなると想定されるハザードマップの整備が進んでいます。最大雨量で想定されたハザードマップは、洪水ハザードマップでは95%とほとんどの自治体で公開されていることに対し、内水ハザードマップでは7%しかありません。このため、内水ハザードマップが作成されていない場合や、最大雨量の想定でないと、作成されていても想定外が発生してしまうこともあります。
水害のハザードマップを見るときには、大きな川の洪水だけのハザードマップに加えて、①内水氾濫・小さな川の氾濫も想定したハザードマップがあるか?、②最大規模の降雨が想定されたマップか?を確認すると良いでしょう。これらがない場合、ハザードマップで想定されていない種類や豪雨による水害による「想定外」の浸水も懸念されます。
ハザードマップの公表率(令和4年度防災白書より作成)
※洪水、内水氾濫は、想定最大規模降雨に対応したマップの公表率を示す
内水氾濫は、近年の統計を見ると全国では被害額の4割強、さらに都市化が進んだ東京都では7割強を占めています。また、全国の浸水棟数のうち約7割にも達しています。河川の洪水は堤防の整備などが進んでいることもありますが、都市部においては河川の洪水以上に被害の割合も多くなっています(内水氾濫コラム)。
内水氾濫で想定される浸水の深さは、最大で1m以上3m未満と1階の床上を超えるケースもあり、場所によっては最大3m以上5m未満などという場所もあります。また、洪水は川の近くで起こることに対して、内水氾濫は川から離れた場所や、高台の地域でも周りより低い場所で起きることがあります。内水ハザードマップを確認、無い場合には地図などで回りより低い場所でないか確認するといいでしょう。なお、ハザードマップでギリギリ色がついていない場所などは、「ギリギリセーフ」としてみると、想定外が発生することも懸念されます。専門家等への相談をお勧めします。
土砂災害では、土砂災害警戒区域、土砂災害特別警戒区域に現在指定されていなくとも、がけや斜面がある場合には大雨の際に崩れることも懸念されます。
④ハザードマップの改定がないかチェック
ハザードマップは以前に見たことがある!という方でも、是非、いま一度ハザードマップを確認しましょう。なぜかというと、近年になってハザードマップを作る際に、想定される一番多い雨の量、つまり一番被害が大きくなると想定されるマップとして、ハザードマップの改定が増えているためです。
今までの洪水ハザードマップでは「浸水しない場所」と想定されていたのに、今年改定されたハザードマップでは浸水が想定される場所となってしまった、ということもあります。また、これまでは川の洪水氾濫しか想定されていなかったものが、中小河川や内水氾濫を想定したマップが公開されていることもあります。
近年にハザードマップの改定がないか念のため確認し、改定されたマップがある場合には、ぜひ確認のうえ被害の想定や、避難するべきかや対策の参考としましょう。
⑤地震の備えは?まずは家屋の耐震性チェック!
地震への備えのポイントはどこでしょうか。戸建て住宅であれば、建物の「耐震性」が最も重要です。いくら備えをしていても、家屋が倒壊してしまっては備えも意味がありません。日本の木造戸建て住宅は、1981年5月までが「旧耐震基準」と呼ばれる古い耐震基準、1981年6月以降は「新耐震基準」、さらに2000年6月以降が「2000年基準」とされる三世代の耐震基準があります。熊本地震では、下の図の通り左側から旧耐震基準、新耐震基準、2000年基準と倒壊・崩壊や大破といった被害は減っており、2000年基準では6%にまで減り、大半が「無被害」、またはその後も住み続けられる「軽微・小破・中破」でした。
住宅の築年数から、旧耐震基準に該当する住宅では、まず耐震診断および必要に応じて耐震改修を行うことをお勧めします。建築から今年で築42年を迎える住宅では「旧耐震基準」の建物である可能性があります。国や自治体によって耐震診断・改修に関する補助支援制度がありますので、築年数をチェックのうえ、ご自宅のある自治体の制度を確認すると良いでしょう。熊本地震の例では「新耐震基準」の建物でも、熊本地震では18.4%と2割近くが大破、倒壊・崩壊した例があり、必要に応じて耐震診断・耐震改修が望まれます。
熊本地震(益城町の悉皆調査)における木造住宅の耐震基準ごとの被害(国総研資料より)
⑥屋内では家具・家電の配置見直しと転倒落下防止を
耐震性の次に、屋内で地震時に気を付けるべき点は、たんすや本棚、食器棚や、テレビ、電子レンジなど、家具・家電の転倒・移動・落下防止です。1995年1月に発生した兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)では、負傷の原因のうち家具の転倒や落下によるものは46%と、負傷者の半数近くに上っています。地震時に家具などの転倒・移動・落下を防止するには、適切な配置と固定・据え付けが効果的です。
本棚など背の高いものは、倒れた時に人のいる場所や通路をふさがない向きに配置することや、食器棚などは、地震時に開いて皿などが飛び出ないような「耐震ラッチ」などで皿の飛び出しを防ぐなどもいざという時に効果的です。ご実家のライフスタイルやお部屋の使い方に応じた対策を、是非話し合ってみてください。
兵庫県南部地震における家屋内での負傷原因(消防庁 HPより)
図の出展は日本建築学会「阪神淡路大震災 住宅内部被害調査報告書」
家具などの固定・据え付けだけでなく、寝室や居間・リビングに倒れやすいもの、落ちてきやすいものを置かないという配置も効果的です。特に、寝室で寝ている場所に本棚やタンスが倒れこむような配置、また家具が倒れた時にドアをふさぐような配置を心がけましょう。睡眠中に大きな地震があった際に避難できなくなることを防ぐことができます。
是非、ご両親の寝室や居室・リビングの家具の配置・固定などを帰省時に皆さんで確認してください。動かせるものなどは、人手がある際に移動することも良いのではないでしょうか。そのうえで、倒れやすい家具の固定を万全に行うことをお勧めします。
⑦屋外ではブロック塀や擁壁にも要注意
屋外では、現在の基準に満たない古いブロック塀は地震時に倒壊することも懸念されます。住んでいる方の被害や家屋、車に倒れこんでしまう被害だけではありません。通行されている方が下敷きになってしまうことや、避難の妨げにもなりかねません。
敷地内や敷地境界にブロック塀がある場合、ブロック塀のチェックポイントとしては(1)現在の基準に満たない点がないか、(2)手で触ってみてぐらつきが発生していないか、また敷地境界にブロック塀がある場合、撤去や軽量のアルミフェンスに改修を見据えて、(3)所有者が誰かも確認しておくと良いでしょう。
ブロック塀点検のチェックポイント(国土交通省HPより)
ブロック塀のチェックポイントを抜き出すと、以下の通りになります。是非、メジャーを持ってチェックしてみてください。ひとつでも該当があれば、専門家などにご相談ください。
ブロック塀のチェック項目
□ 1.塀は高すぎないか
塀の高さは地盤から2.2m以下か。□ 2.塀の厚さは十分か
塀の厚さは10cm以上か。
(塀の高さが2m超2.2m以下の場合は15cm以上)□ 3.控え壁はあるか。 (塀の高さが1.2m超の場合)
塀の長さ3.4m以下ごとに、塀の高さの1/5以上突出した□ 4.基礎があるか
コンクリートの基礎があるか。□ 5.塀は健全か
塀に傾き、ひび割れはないか。□ 6.塀に鉄筋は入っているか
<専門家に相談しましょう>
高低差がある敷地では、崖の崩壊を防ぐために擁壁が設けられていることがあります。地震時や大雨の際に、擁壁が倒壊・崩壊して被害を与えてしまうことがあります。
擁壁は、昔から住んでいる家の場合や、既存の擁壁つきの宅地を購入する場合には、擁壁が古い基準で建築された「既存不適格」となっていることがあります。その場合、家屋の建て替えの際などに擁壁を作り直す必要がある場合、地盤改良等が必要な事例もあります。コストが大きくなることがあるばかりか、大雨や地震で擁壁が倒壊、破損することもあります。擁壁の破損があると、上に建っている家屋も被害を受けることがあり、家屋が倒壊・崩落する可能性もあるばかりか、擁壁の下の住宅や歩行者などにまで被害を与えてしまうこともあります。
擁壁は定期的な確認や、既存擁壁付きの物件を購入する場合には、擁壁の変状や破損がないかをチェックすることが望ましいです。国土交通省が、「我が家の擁壁チェックシート」を公開しているので、チェックする際の参考として利用できます。ご実家の敷地内や敷地境界に擁壁がある場合には、ぜひ年末年始に点検を行い、ひび割れやふくらみが発生していないか、また水抜き穴や排水施設の清掃や草取りなどをしておくことが良いでしょう。
地震で倒壊した擁壁の例
2016年4月16日 熊本市益城町にて(横山芳春撮影)
以上、帰省時に確認したい実家の災害リスク7選でした。ハザードマップの改定や、避難所へのルートも状況が変わっていくこともあります。部屋の家具の配置や据え付けなど、人手が要る場合もあり、是非年末年始に皆さまがご実家に帰省する際、ご両親にご健康にお過ごしいただくため、是非可能な範囲での確認やお話しなどをしてみてはいかがでしょうか。
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