福岡県西方沖地震に学ぶ 「警固断層」~福岡市直下にある活断層の脅威と対策

  • Update: 2023-03-20
福岡県西方沖地震に学ぶ 「警固断層」~福岡市直下にある活断層の脅威と対策

福岡県西方沖地震とは?

 福岡県西方沖地震は、2005年3月20日10時53分ごろに発生したマグニチュードM)7.0の地震で福岡県福岡市東区、福岡市中央区、前原市(現在の糸島市)および、佐賀県みやき町で震度6弱を観測したほか、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、山口県などで震度5強~震度4を観測しています気象庁)。震度1以上の余震が2005年12月末までに405回(うち最大震度4以上の余震が8回)発生し、最大余震は、4月20日に発生したM5.8の地震で、福岡県福岡市博多区などで震度5強を観測しています(気象庁)。

 福岡県西方沖地震による死者は1名、重傷者198名、軽症者1,006名、住家被害として全壊144棟、半壊353棟、一部破損9,338棟という被害が報告されています(消防庁)。1名の死者は福岡市東区において75歳女性がブロック塀の下敷きになり全身打撲により死亡した事例のほか、福岡市・天神の繁華街ではビルの窓ガラスが大量に落下震源に近い玄海島では急傾斜地に建つ住家の被害が多く、石積み擁壁・盛土の崩壊が原因になっているところも多いとされ、港湾部では液状化現象による被害も発生しています(土木学会速報)。

 この地震を引き起こしたのは、玄界灘から博多湾を経て、福岡平野にかけてほぼ北西−南東に分布する活断層である「警固(けご)断層帯」という活断層とされています。警固断層帯は、福岡市北西沖の玄界灘から博多湾、福岡市中央区、南区、春日市、大野城市、太宰府市、筑紫野市に至る55㎞ほどの活断層ですが、福岡県北西沖地震では警固断層帯の北西側が活動したものとみられています地震本部)。

福岡県西方沖地震の震源位置
(地震本部「福岡県の地震活動の特徴」に加筆)

活動が警戒される「都市直下地震」の実態

 2005年に起きた福岡県西方沖地震警固断層帯の北西部の玄界灘で発生した地震です。警固断層帯の南東部は、志賀島から博多湾を経て福岡市中央区、南区、春日市、大野城市、太宰府市、筑紫野市に至る陸域にあり、警固断層帯北西部の活動とは別の地震活動があるものと考えられております。警固断層帯南東部は九州一の大都市、福岡市の市街地直下を縦断しており、今後の都市直下における地震発生が懸念されています。

警固断層帯の位置(地震本部「警固断層帯」より)

 警固断層帯南東部の活動で地震があると、M7.2程度の地震が発生すると考えられています。今後30年以内の地震発生確率は0.3%~6%とされ、最大値をとると日本国内の主な活断層の中では、「地震が発生する可能性が高いグループ(地震本部)」属する「Sランク」の活断層になります。福岡県西方沖地震は警固断層帯北西部の活動であり、活動がない期間が長く続いている警固断層帯南東部では地震が発生する可能性のある間隔が近づいているとも読み取れます。

 警固断層帯は、「左横ずれ型」の活断層で、南東部で活動の際には2mほどのずれが想定されています地震本部2023年2月6日に発生したトルコ南部の地震(M7.8・M7.5)も同様に左横ずれ型で、ずれは2~6mほどの場所が多いですが、最大7.7mのずれ(産総研 )があったとされています。活断層直上では、地表が大きく動くことで、甚大な被害も想定されます。

 南海トラフ地震が30年以内に70~80%という確率からすると6%は小さい数字に見えます。2016年に起きた熊本地震(本震)を引き起こしたのは、主に布田川断層という活断層と言われていますが、30年以内の地震発生確率はほぼ0%~0.9%地震本部 )とされていました。南海トラフ地震など海溝型の地震は90~150年という間隔で起きていますが、活断層は数千年という長い間隔で活動しているため、30年間で確率を計算すると小さな数字に見えることに注意が必要です。警固断層帯(南東部)は、熊本地震を引き起こした活断層より地震発生確率が高い活断層です。

 それでは、警固断層帯が活動すると、どのような地震の揺れに見舞われるのでしょうか。「J-SHIS Map」をもとに、警固断層帯(全体が同時に活動)で想定される最大の震度を表示してみましょう。警固断層沿いの福岡市付近の広い範囲で震度7の揺れ(濃い赤色)、その周辺の広い範囲で震度6強(ピンク色)の揺れに見舞われるという想定があります。

警固断層帯の活動で想定される最大の震度
J-SHIS Map (bosai.go.jp)にて「条件付超過確率」に
2020年地震活動モデル「警固断層帯 (全体が同時に活動)」を表示)

福岡市内における影響は?

 福岡市内の警固断層の位置を地図上で追っていくと、福岡市地下鉄空港線の赤坂駅付近から、西鉄天神大牟田線西鉄平尾駅、高宮駅、大橋駅あたりでは西鉄線沿いに並走し、九州新幹線福岡都市高速環状線を横断して、春日大通り沿いに向かっています。九州最大の歓楽街である天神にもほど近い場所を走っており、中央区のオフィス街、官公庁街から、人口の密集する住宅街を抱える西鉄沿いを縦断している活断層であるといえます。なお、「警固」は、天神駅のそばにある警固神社警固公園のほか、赤坂駅南側の福岡市中央区の住所として存在しています。

福岡市内の警固断層(南東部)のおよその位置
(地理院地図に「活断層図」の活断層位置を赤点線で記入のほか、路線名などを記入)

 

 JR南福岡駅付近から北西側市内を望む空撮画像で、推定される警固断層の位置を見ると、福岡平野に一面に建物が立ち並び、都市が広がる一帯を縦断していることが良くわかります。警固断層帯南東部の活動による地震があったときに、震度が大きくなる場所と想定される位置と一致しています。活動した際に、住宅街や市街地において大きな影響が想定されることが、視覚的にも理解しやすいと思います。

 福岡県による被害想定では、警固断層帯の活動(南東部・北西下部)では福岡県内の死者1,183名、負傷者22,508名、建物では全壊・大破が17,967棟、半壊が15,021棟と想定されており、甚大な被害が発生することが想定されています。熊本地震の被害は、死者273名(そのうち震災関連死は218名)、負傷者1,606名、住家の全壊8,667棟(消防庁)でしたので、警固断層帯南東部の地震は熊本地震の被害を大きく上回る想定となります。

人口の密集する都市部に走る警固断層(2020年横山芳春撮影)

 警固断層帯の地震活動で、大きな震度となる可能性がある理由の一つとしては、那珂川や御笠川沿いの福岡平野の地盤が軟弱であるということも影響していると考えられます。下の図は、地震があった時の地盤の揺れやすさ(表層地盤増幅率)を示しています。赤色は揺れやすい地盤、濃いオレンジ色はやや揺れやすい地盤の地域といえます。天神駅以南の西鉄沿い、博多駅以南の九州新幹線沿い、鹿児島本線沿いなどで揺れやすい地盤が広がっていることがわかります。

 青色や水色の地域は山地の揺れにくい地盤です。揺れやすい地盤の場所は、揺れにくい場所に比べて震度が1~2階級大きく増幅されることがあります。揺れにくい場所で震度5強であった揺れが、揺れやすい場所では震度6弱、震度6強に揺れが大きくなる違いになります。震度が大きい=地震の揺れが大きくなると、揺れによる被害も大きくなっていく傾向があります。

警固断層帯南東部付近の地盤のゆれやすさ
J-SHIS Map (bosai.go.jp)に「表層地盤増幅率」を示す)

都市部の地震にどう備えるか?

 住宅の地震対策で最も重要なことは、建物の倒壊による直接の被害を減らすための、建物の「耐震化」です。福岡市耐震改修促進計画によると、福岡市の耐震化率は、木造戸建て住宅では約70%共同住宅等では約91%住宅全体では約87%が耐震化されているようです。どうしても、個人が所有し予算にも限りがある木造戸建て住宅では、リフォームなどを行う際にも耐震診断・耐震改修をしないことも多いなど、対策が遅れる傾向があります。

 福岡市では、昭和56年5月31日以前に建築確認を得て着工した旧耐震基準」の住宅を対象とした住宅の耐震改修工事費補助もあり、他の自治体でも耐震診断・耐震改修に関する補助制度があることが多いので、お住いの自治体にて対象となる条件などをご確認のうえ、ぜひご活用下さい。「新耐震基準」の住宅は補助の対象外となっていることも多いですが、今後長く住みたい場合や、地震リスクが高い場所では必要に応じて耐震診断・耐震改修をお勧めします。

福岡市内の住宅における耐震化の状況
福岡市耐震改修促進計画より)

 

 また、福岡市では、福岡市建築基準法施行条例で、警固断層に着目した建築物の耐震対策を推進しています。福岡市内で、「大地震時における設計地震力を上乗せする区域」として、①揺れやすさマップで揺れやすい地域、②警固断層帯南東部直上の区域、③土地が高度利用されている区域(容積率600%以上)について、建築基準法が定める数値より上乗せが求められています。この条例では「高さが20メートルを超える建築物で、(略)構造計算を行う場合は、現在の「地域係数 Z 」を その数値に1.25を乗じたもの Z=1.0 とするよう努めなければならない 」というものです。「努めなければならない」ということ義務ではなく努力義務ですが、警固断層帯真上や地震の揺れが大きくなりやすい地域を対象とした条例として、意義の大きいものと考えられます。

 地域係数とは、大地震が起きやすい地域か否かで、1.0~0.7まで定められています。数字が小さいほど、地震力を低減して計算できるというものです。関東地方、東海地方、近畿地方などでは標準の1.0が用いられますが、福岡県全域では大地震が起こる可能性が低い地域として、「地域係数」が0.8とされています。しかし、この係数は1952年、つまり今から70年以上前に定められたものです。その後発覚した活断層リスクや軟弱地盤などは考慮されておらず、熊本地震があった熊本県でも地域係数0.8~0.9と軽減されているなど、現行の地震の考えからすると時代遅れの感もありますが、条例ではこれを関東・東海地方と同等のレベルで計算することが求められています。

 条例の対象となる大地震時における設計地震力を上乗せする区域は以下の図の通りです。博多駅西側の博多口から祇園、中州、天神周辺は高度利用されている地域または揺れやすい地域として、警固断層沿いとしては長浜から南東に赤坂、警固、薬院から西鉄沿いに平尾、高宮、大橋などの地域が対象となります。

福岡市条例の対象範囲(福岡市HPより)

家庭・個人での備えは?

 個人では、市条例の対象は高さ20m以上の建築物ですので戸建て住宅は対象ではありませんが、戸建て住宅こそ耐震化が必要となります。地震対策としては、地盤の揺れやすさを実測する(微動探査新築であれば構造計算を行って耐震等級3の住宅を建てる、制振ダンパーを装着するなどのほか、既存住宅であれば耐震診断のうえ、耐震補強を行って制振ダンパーを装着するなどが望まれるでしょう。設計が万全でも、施工不良があると家屋損壊の原因となることから、新築時の第三者による工事チェックなども有効です。

 耐震性強化の次に行いたいのが、室内の家具配置の見直しです。2階に重いタンスなどがある場合は重心を高めて被害に繋がるため1階に下ろす、衣装ケースに買い替えるなども有効です。倒壊のおそれが低いマンションなどでも共通ですが、本棚やタンスなどを寝室に置く場合、倒れた場合に寝ている場所やドアをふさがない配置が重要です。家具だけを置く収納部屋をつくることも良いでしょう。家電も飛んでくることも考えられるので、転倒防止や据え付け、移動した際に、過ごしている場所で怪我をしない配置も考慮しましょう。

 家具については転倒防止も重要ですが、それ以上に配置を考えることが先決です。キッチンは食器棚や冷蔵庫、電子レンジ、また包丁なども刃物や皿など割れる可能性が有る物も多い空間です。自動消火機能がある新しいコンロであれば消化の必要はないので、危ないキッチンに入らないことも重要です。都市部・住宅街における我が家の地震対策として、まずは住宅を倒壊、また出火させないための耐震化、次に家具の転倒で怪我をすることのないように家具の配置を考えて固定をしましょう。さらに火災防止として感震ブレーカーの設置などを行っていくことが望ましいです。そのうえで、最低3日分、できれば7日分の食糧と水・飲料のほか防寒具、燃料など、なにより食べるだけではなくライフライン途絶を見越した非常用トイレの備蓄が求められます。

 福岡県西方沖地震では、ブロック塀の倒壊や擁壁・盛土造成地の被害も目立ちました。通行中の人や隣地に被害を与えてしまうこともあることから、ブロック塀の点検擁壁の点検などを行っておくことや、購入する物件にある場合は現在の法律に適合しているか、所有者は誰かなども確認しておくことが必要でしょう。

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