下記のグラフは、さくら事務所で2019年〜2021年に行った新築工事中ホームインスペクション(第三者検査)で不具合が発生していた工程を割合で示したものです。ご覧のとおり「防水」の不具合発生率は、例年75〜80 %ほど。不具合の内容はさまざまですが、ほとんどの住宅で防水に関してなんらかの問題点が発覚しています。
そこで本記事では、雨漏りが発生しやすい箇所や特に防水を気をつけるべき住まいの特徴を解説します。
雨水はどこから浸入するの?
「防水施工マニュアル(住宅用防水施工技術)2021(技報堂出版・日本住宅保証検査機構編)」を基に作図
最も雨水が浸入しやすい箇所は「サッシまわり」です。つまり、窓のまわり。新築住宅で発生する雨漏りのうち、実に1/4以上が窓のまわりで起こっています。次いで多い箇所が「外壁の平・目地部」と「笠木と外壁の取り合い・笠木の壁当たり」です。雨漏りの40%以上は、この3ヶ所で発生しています。
サッシまわり
金属製や樹脂製などのサッシと外壁という違う部材同士が組み合わさる部分には、どうしても隙間が空いてしまいます。この隙間を徹底的に埋めることが、サッシまわりの防水として非常に重要です。
サッシと外壁の隙間は「防水テープ」で埋めますが、このテープに隙間が空いてしまっていたり、テープを貼る順序を間違っていたりすることも少なくありません。また、防水シートに傷がついていることも。このような場合は、隙間や傷の上から防水テープを施工することで、防水性を損なわずにすみます。
外壁の平・目地部
さくら事務所の新築工事中ホームインスペクションでよく見られるのは、外壁の下地となる防水シートに穴が空いてしまっているケース。貼っているときは問題なくても、建築中の衝撃や台風などで物が飛散したことにより穴が開いてしまい、誰にも気づかれずそのままになってしまっていることが見受けられます。また、防水シートは重ねて施工していくものですが、重ね代がしっかり取れていないと、雨漏りが発生しやすくなります。
笠木と外壁の取り合い・笠木の壁当たり
雨水にさらされる壁の頂部などに見られる笠木ですが、頂部だけでなく、横なぐりの台風や下からも噴き上げてくる豪雨から外壁を守る大切な部材です。四方八方からの雨水の浸入を防がなければならないため、単に防水シートを平面的に貼るだけでは防水できません。
後述しますが、防水シートなどの施工方法に決まりがあるわけではありません。そのため、しっかり防水できるかどうかは現場の職人次第。部材の施工順序が誤っていたり、防水シートで覆えていない部分があったりすることも、少なからず見られます。
こんな住まいは特に注意!
次のような特徴のある住まいは、特に防水に関して注意が必要です。
立面的にシンプルな形
- 陸屋根:勾配がない、あるいはほとんどない屋根
- 三方パラペット:片流れの屋根の三方に立ち上がり部分がある
- 軒ゼロ住宅:軒の出が短い
このように外観が立面的にシンプルな家は、雨漏りのリスクが高いといえます。まず、屋根が平だったり、三方パラペットや片流れだと、切妻屋根や寄棟屋根より雨漏りする可能性が高くなります。
また、軒がほとんどないと、雨が外壁に当たりやすくなります。「雨漏り」は結果論です。たとえ防水シートに穴が空いていたとしても、雨がかからなければ雨漏りすることはありません。しかし、軒がほとんどないと雨が当たる面積が広くなり、雨漏りにつながる可能性が高くなります。雨漏りは、施工不良とともに雨がかかるという現象が重なることで起こります。
シンプルな形状の住まいは、雨漏りリスクが高まりやすい屋根形状に加えて、雨水があたる範囲が広域にわたることから、雨漏りが発生するリスクが高まるのです。
平面的に複雑な形
- 1階と2階の大きさが違う
- 正方形や長方形ではなく複雑な形をしている
このように平面的に複雑な形状の家は、屋根が複数に分かれるため雨漏りのリスクが高いといえます。屋根が分かれているということは、各々、壁とぶつかる場所があり、それだけ接合部も多いということ。防水施工が難しくなるため、ミスが発生したり見落とされたりしやすい考えられます。
狭小地
隣戸と距離が近い狭小地は、どうしても施工がしにくいものです。職人さんも気をつけて作業をしているものの、気づかないうちに資材を運ぶときや施工中に防水シートなどを傷つけてしまっている可能性があります。
根本的な問題は明確な決まりがないこと
防水施工にこれだけの不具合が見られる根本的な問題は、雨水の浸入防止に関する決まりがないことにあります。防水は、耐震と並ぶ住宅の二大性能といえるものです。耐震については、古くから耐震基準があり、今では3つの耐震等級も定められています。しかし、防水については明確な決まりがないのです。
古くは住宅金融公庫の共通仕様書がありましたが、これはあくまで「推奨」でしたし、2000年に施行された品確法には防水基準がありません。2009年から受付を開始した瑕疵保険には設計施工基準がありますが「雨水の浸入を防止するために適切な納まりとする」といった抽象的な記載も多く、具体的な施工方法などについてはほとんど言及されていません。
新築住宅は、品確法の瑕疵担保責任によって10年間、主要構造部や雨漏りに関して売主や施工会社が責任を負います。しかし、10年を超えて発生した雨漏りについては、施工会社や売主が修繕等をする法的責任はなく、検証すらされないことも少なくありません。
明確な決まりのない防水施工は、属人的な工事がいまだに行われているのが現状です。さらに、豊富な知識を持ったベテランの職人さんや現場監督はどんどん引退し、労働人口が減る中、建築現場は深刻な人手不足に陥りつつあります。今後は、ますます技術力の低下やミスの多発や見落としが懸念されます。
「防水検査」は住宅が建ってからでは確認できないことが多いため、ご不安な方は工事中から段階的に検査ができる、新築工事中ホームインスペクションの無料相談をぜひご利用ください。