事故が続出…!?必ずチェックしたい10のアパート欠陥事例と対策

  • Update: 2021-06-09
事故が続出…!?必ずチェックしたい10のアパート欠陥事例と対策

この記事はプロのホームインスペクターが監修しています

今年4月、東京都八王子市の『アパートの外階段が崩落』するという、耳を疑うようなニュースが報道されました。転落した住人は亡くなられ、誰もが考えもしなかった住まいの欠陥に驚かれた方は多いでしょう。

ホームインスペクション(住宅診断)の現場では、新築から中古物件までさまざまなアパート・収益物件のインスペクションを手がけています。アパート・収益物件に限らず、戸建ても含め、住宅の劣化や不具合の状況などを多方面から診断を行っていますが、トラブルの発生や頻度、内容ともに重大な内容を抱えるのは圧倒的にアパート・収益物件が多い現状があります。

もちろん、丁寧な設計、施工を行う会社は多数ありますが、一方で、あまりにもずさんで場合によっては人命にもかかわるような不具合が放置されたまま所有者に引き渡されているアパート・収益物件も多数存在します。

そこで、これまでのホームインスペクション現場での実例をもとに、アパート・収益物件に入居する、または購入する場合のチェックしておきたい10の欠陥事例をピックアップしました。ホームインスペクターの視点からのアドバイスと欠陥対策も共にご紹介しますので、物件選びの参考にしてみてくださいね。

中古マンションホームインスペクション

必ずチェックしておくべき欠陥10選

【ケース①】 階段の固定不良(その1)

階段の固定不良(その1)

事故が起きた賃貸アパートでは屋外階段が突然崩落するという、生活者が注意して回避することができない事故が発生しました。通常階段をのぼるとき、階段が外れないか、落下しないかを心配することはほとんどないでしょう。ところが、この事件をきっかけに、階段がきちんと固定されているのか、そして部材(ぶざい)に何が使用されているかの確認は不可欠と考えるアパート所有者が増えたでしょう。

ちなみに部材とは、建物において、骨組みや構造などを構成するものことです。例えば、住宅の基本的な構造をなす柱や梁なども「部材」にあたります。階段に適した部材が使用されていなかったり、正しく取り付けられていなかったりすると固定不良が発生します。

過去にホームインスペクション現場で確認されたこちらの事例は、階段と階段を固定するL字型の部材(金物)がとても雑に溶接されているため、階段がきちんと固定されていないという欠陥です。白い外壁に黒い階段の部材を固定しているのですが、そもそもこの固定部材は、この階段と外壁を繋ぐのに適していない製品でした。新築アパートの完成時の検査だったため、それを指摘し、施工者に直してもらいました。

【ケース②】 階段の固定不良(その2)

階段の固定不良 (その2)

この写真のケースも、階段の固定不良ですが、こちらはさらにずさんな事例です。L字型の部材を使っていますが、そもそもこれは階段を留めるものではありません。加えて、この金物はビスやネジなどでの固定や溶接がされておらず、簡単に仮止めされている程度でした。

単純に、この金物の上に階段が乗っかっているだけの状況ですから、固定されていないものと考えられ、非常に危険な状態です。 新築の完成検査時点で見つけることができたため人が住む前に修繕を依頼できてよかったものの、放置されていれば取り返しのつかない事態になっていた可能性があるでしょう。階段がぐらつく、場合によっては落ちてしまっていたかもしれません。施工者からすれば人から見えない場所でこの程度のこと・・・と気にもしていなかったかもしれませんが、人命にかかわる大きな問題なのです。

1ページで分かるホームインスペクションとさくら事務所とは

【ケース③】 屋外階段に不適な木材が使用されている?

屋外階段に不適な木材が使用されている?

次の事例は、八王子市の賃貸アパートの外階段が崩落したニュースでも指摘されましたが、屋外階段に木材が使用されている事例です。当然ですが、屋外は雨など天候の影響を受けやすいのです。カビが生えたり、腐食したりと劣化が進むと階段そのものの耐久性も低くなります。

また防火性の面でもリスクがあります。 周囲で火災が発生した際、木材部分から火事が広がりやすくなってしまうからです。 こちらは階段ではありませんが、外壁の一部で木材が露出してしまっている例です。近隣で火災が発生すると、木材部分から燃え広がるケースも十分に考えられます。そこで、木材部分の露出を少なくするよう、ホームインスペクションの際に指摘しました。

【ケース④】 極端な段差がある

極端な段差がある

こちらは玄関前のアプローチの段差ですが、段により高さが異なっています。このケースは玄関前のアプローチですが、ときどき室内階段の高さが違うケースもあります。

高いところと低いところの差がありすぎると、どうしても転倒のリスクが大きくなり、ちょっとした転倒でも、大きなケガにつながることもあります。見た目以上に危険がともなう欠陥といえるでしょう。 この事例も新築入居前のホームインスペクションだったため指摘ができましたが、段差が改善されずに入居がスタートしていたら、すぐに誰かが転ぶなどのトラブルにつながっていたかもしれません。

作り手はこの程度なら大丈夫だろうと勝手に図面と異なる施工にしてしまうことがありますが、建物を使う人の命や健康に関わる問題ですから、見過ごすわけにはいかないのです。

【ケース⑤】 お風呂の湯気が天井裏に?ダクトの不備

階段ではありませんが、賃貸アパートやマンションでよく出くわすのが、こちらの動画の不具合です。

向かって右側が換気扇ですが、浴室の湯気などを外に排出するために、屋内の換気扇から外への排気口をつなぐ空気の通り道である配管をダクトといいます。 よく見ると換気扇とダクト(配管)がきちんと接続されておらず、大きなすき間があります。

そのため、浴室内の水蒸気が換気扇からきちんと輩出されず、一部が天井裏に流れ、湿気がこもってしまうことになります。 湿気がこもり、天井裏はカビが発生し、場合によっては屋根の梁や柱などの木材が腐食してしまうかもしれません。また、天井裏の配線にも影響し、電気回線のショートにつながることもあり得るのです。

【ケース⑥】 ダクトそのものが設置されていない

ダクトそのものが設置されていない

換気扇に接続し、建物内の空調や換気、排煙の役割を担うダクト。きちんと設置されていないと蒸気などが漏れ、トラブルにつながるとご紹介しましたが、ある新築物件で、そもそもこのダクト自体を取り付けていない、信じがたい事例もありました。

こちらも新築アパートの完成時の検査で見つけたものなので、入居が始まる前にダクトを取り付けることができましたが、もし新築時に見つけていなければ、あっという間に天井裏はカビだらけとなり、カビの胞子が室内に繁殖して初めて、この施工不良にきづくことになっていたかもしれません。 まれに、分譲のマンションや一戸建て、注文住宅などでもダクトがない、あっても不備があるケースも見かけますが、賃貸アパート・収益物件においては頻発しています。残念ながら、分譲や注文建築の戸建ての倍以上の発生頻度で、チェックが求められる箇所といえます。

【ケース⑦】 天井裏の防火対策が不十分

天井裏の防火対策が不十分

同じ天井裏の欠陥で注意したいのが、火災対策です。特にアパート・マンションといった共同住宅の場合、延焼防止の面からも防耐火は重要です。

以前、ある大手賃貸アパート施工会社の物件で、建てられた建物の多くで界壁(かいへき)施工に不備があったと問題になりました。 界壁とは屋根部分、天井裏に設置する壁のことで、主に防音と防火の役割を担います。ですから、界壁がなければ、建物の防火性の低下は避けられません。アパート・収益物件では火災対策にも目を光らせる必要があるのです。

こちらの事例は界壁ではありませんが、石こうボードを使用して耐火性能を向上させる施工を予定していました、が天井部分の木材がそのまま露出しています。これは完全に法律に違反していた事例で、入居者の安全にもかかわる重要事項です。

戸建てでも法律で認められる範囲内で部分的に防火対策がされていないケースはありますが、アパート・収益物件では、防火対策を施す必要性が完全に忘れ去られているケースに多々出くわします。 この物件も新築完成前の検査で見つけることができたため、竣工までに図面で指示されていた石こうボードを貼るよう、修繕を依頼することができました。

【ケース⑧】 給水管からの水漏れが発生

 

こちらの動画をご覧ください。給水管からポタポタしずくが落ちているのがおわかりいただけるでしょうか?ここは外の水道の本管から建物の敷地内にある水道の管につなぐところ、水道のメーターがある箇所になりますが、新築時からすでに漏水が発生してしまっています。

水漏れは数としてかなり多い部類の欠陥です。このケースでは水道メーターを経由していますから、漏れた水も使用量としてカウントされてしまいます。 また、そのほかの水道にまつわるひどい施工だと、本来水道メーターを経由させなくてはいけないのに、メーターを通さずに直接、建物の敷地内の管をつないでいた事例もありました。水道メーターの設置は法律による義務であり、料金を払わず水を使うことは法律違反となります。珍しいケースですが、実際にあった話です。

【ケース⑨】 外壁の継ぎ目にすき間がある

外壁の継ぎ目にすき間がある

以下の写真に写っているのは、サイディングと呼ばれる外壁材です。本来、板と板のこの継ぎ目部分、矢印が書いてある部分はゴム材のような「シーリング」あるいは「コーキング」と呼ばれるものを塗り、すき間を埋めなければなりません。

分譲住宅でもよくあるのは、シーリング・コーキングを塗ってはいるが部分的にすき間があう不具合ですが、この賃貸アパートの場合、そもそもでシーリングがまったく施されていません。一部だけであれば偶然施工を忘れてしまった可能性はありますが、他にも同様の箇所があれば、工事を間に合わせるためにそもそもこの工事を行う職人を呼んですらおらず、意図的にこの工事を行わなかった可能性があります。

【ケース⑩】 屋上など適切な部材が使用されていない箇所が存在

屋上など適切な部材が使用されていない箇所が存在

最後にご紹介する欠陥は、屋上に上がってチェックして気づいたものです。

画像の部材は笠木(かさぎ)と呼ばれ、手すりやパラペット、腰壁の上部に取り付けられる、雨が直接部材に当たりにくくして腐食を防ぐ目的で使われる仕上げ材です。ちなみにパラペットとは、建物の屋根や、屋上、バルコニーの一番外側にある壁のことです。

この写真では、確度90度の笠木が90度ではないところにはめられています。見た目から明らかにおかしいですが、そのまま放置されていた事例です。このままにしていたら、本来は雨が直接かからないようにするはずの部材が外れているわけですから、雨漏りにつながります。

この画像では見えにくいですが、笠木がパラペットの形に合っておらずすき間ができてしまっていて、そこから水が入ってくるのです。 放っておけばこの直下の階では、すぐにでも雨漏りが発生してもおかしくない手抜き工事です。雨漏りは入居者に迷惑をかけ、直すのにとても時間を要します。雨漏りの修繕に保険は利用できますが、そもそも図面に合わせて普通に工事してさえいれば避けられるトラブルですから、あとで所有者(オーナー)が煩わされるのはおかしなことです。

なぜ不具合は起きてしまう?不具合物件を見極めポイントを知ろう!

なぜ不具合は起きてしまう?不具合物件を見極めポイントを知ろう!

ここまでアパート・収益物件で注意したい10の不具合や欠陥についてお伝えしてきました。改めてお伝えすると、アパート・収益物件をきちんと設計、施工している会社はたくさんあります。ところが、このように多数の手抜き工事の事例があることもまた事実です。 アパート・収益物件に不具合がある、欠陥が見つかるのには次のような理由があると考えています。

①. 新築のアパート利回りが極端に高い
②. 工事のコストが極限まで抑えられている
③. 工期がとんでもなく短い

特に、①については、階段が崩落した物件の施工を行った業者を含め、新築のアパートで「利回り10%超え」をうたう会社が存在します。しかし、収益アパートやマンションで10%の利回りは極めて珍しいもの。 もし賃料を周辺より高くとれる合理的な理由がないのに高利回りを実現できるとしたら、工期を極端に短くしてコストを抑えるか、工事そのものの質を抑えるといった「コストダウン」の要因があるはずです。

高利回りをうたうため、コスト削減のために使われるはずのない部材を用いたり、仕事のできる専門の職人を雇用しなかったりと、どこかに歪みをもたらす結果を招いてしまうこともあり、注意が必要です。

あまりにも短い工期は要注意、図面確認も忘れずに

あまりにも短い工期は要注意、図面確認も忘れずに

皆さんは、アパート・収益物件に入居する、または購入する場合に図面に目を通した経験はありますか? いい物件があったら、次は契約となりがちですが、しっかり現況を図面で確認することが大切です。

設計図と実際の建物が大きく違っているというケースは、ここまでにご紹介したような「リスクや法律を知らない施工者が現場で勝手に変更してしまった」という可能性をはらんでいます。また、図面の重要性を考えない施工者や不動産会社も多く、そもそも違うアパートの図面で契約していた……という例も耳にします。 建物と図面のチェックは、意識していないと忘れがちなこと。まずは、図面と完成している建物が同じ物なのかどうか、これは絶対にチェックしていただきたいポイントです。

そして極端に利回りが高い、工事費が安い賃貸アパート・マンションは要注意です。3月の入居に合わせるためにとんでもない突貫工事を行うケースはめずらしくありません。工期、契約共に余裕を持って進めるよう心がけておきましょう。 もちろん、施主・オーナーご自身で、アパート・収益物件をチェックすることは可能です。ただ、目に見えにくい箇所、一般的な住宅の知識では気づくのが難しいトラブルや欠陥も少なくありません。

私たちさくら事務所では、中立な立場でアパート・収益物件のホームインスペクションを行っています。 住宅建築の豊富な知識経験をもとに建物を調べ、見つかった不具合はどのように悪影響があるのか、いつどのように直すのがいいのか、それにはどのくらいの費用がかかりそうなのかをわかりやすくご説明いたします。 専門家の視点や客観的なアドバイスを希望される方には、ぜひホームインスペクションをご検討ください。

ホームインスペクター 柴尾 竜也
監修者

さくら事務所 プロホームインスペクター

柴尾 竜也

住宅の販売、仲介、現場施工管理、工事監理と一戸建て住宅に関連する業務に従事。その後、さくら事務所に参画。神奈川県を拠点として東日本に対応。