注文住宅の仕上がりを担保?「住宅性能表示制度」を知っておこう

  • Update: 2022-03-28
注文住宅の仕上がりを担保?「住宅性能表示制度」を知っておこう

一生で一番大きな買い物である「住宅」。とりわけ注文住宅は、完成形を見ないまま契約を余儀なくされます。高価な買い物、たとえば自動車なら試乗があり、家電や精密機器なら「初期不良・返品交換」が可能ですが、住宅にはそれらがありません。注文住宅を安心して契約するにはどうすればよいのでしょうか。 一つのアプローチとして、一度は検討しておきたいのが、住宅性能表示制度の利用です。建設住宅性能評価を取得している住宅は、瑕疵保険の使用率(事故の多さ)について、構造上の瑕疵や雨漏りが原因の事案が住宅性能評価書を取得していない建物より低いという報告があります。この記事では、制度の概要、具体的な利用イメージ、メリット・デメリットを紹介します。ぜひご参考ください。

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住宅性能表示制度とは

住宅性能表示制度は、平成12年4月1日に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に基づき、同年10月に本格的に運用開始された制度です。住宅の性能を評価する共通の方法(モノサシ)として、「日本住宅性能表示基準」が定められ、この制度を採用した住宅は、メーカー・工法を問わず、統一の基準に当てはめて、どの程度の性能で設計・施工されたのかを記した客観的な評価書を取得することができます。

制度を採用した住宅は三つの安心が得られます。

第三者の専門家が公正にチェック

国土交通大臣に登録された第三者機関「登録住宅性能評価機関」は、建築主から申請された建物について、日本住宅性能評価基準に照らし合わせ、どの程度の等級なのかを審査します。建てる前の設計・企画の段階と、実際の建設中・完成後、の二つのタイミングで評価されますが、設計の段階で評価を経ていなければ建設段階の検査は受けられません。設計のみの評価か、設計と施工の両工程での評価を受けるかの選択ができます。

  • 建てる前の設計企画段階:設計住宅性能評価は、設計段階で求められている性能どおりに設計されているかを設計図書等で評価します。
  • 建設中・建築後:建設住宅性能評価は、建設工事や完成した段階で設計図書どおりに施工されているかについて、現場検査を行い確認・評価します。例えば、戸建住宅の場合は、原則4回の現場検査を行います。

住まいの性能をわかりやすく表示

最大10分野の性能を等級や数値などで表示し、等級は数字が大きいほど性能が高いことを示します。このうち4分野が必須項目となります。

  1. 構造の安定(耐震性)に関すること[必須]
  2. 劣化の軽減(耐久性)に関すること[必須]
  3. 維持管理・更新への配慮に関すること[必須]
  4. 温熱環境(断熱性)・エネルギー消費量(省エネ性)に関すること[必須]
  5. 火災時の安全に関すること
  6. 空気環境に関すること
  7. 光・視環境に関すること
  8. 音環境に関すること
  9. 高齢者等への配慮(バリアフリー性)に関すること
  10. 防犯に関すること

万一のトラブルにも専門機関が対応

建設住宅性能評価書を取得した住宅でトラブルが起きた場合、公益財団法人住宅紛争処理支援センターにおいて、建築士・弁護士による電話相談や対面相談を無料で受けられます。

また、裁判によらない迅速な解決を図るため、指定住宅紛争処理機関(各地にある単位弁護士会)に紛争処理を申請料1万円で申請することができます。更に建設住宅性能評価書が交付された住宅の紛争であれば、住宅性能評価書の記載内容以外でも、請負契約や売買契約に関する当事者間の紛争処理を扱います。

必須項目の4分野

  1. 「構造の安定」とは、どれだけ地震に強い住宅かを表します。倒壊や損傷のしにくさを等級1~3で表示します。最も高い耐震等級3は、建築基準法レベル(耐震等級1)の1.5倍の強さがあります。
  2. 「劣化の軽減」とは、住宅に使用される材料の劣化の進行を遅らせるための対策が、どの程度講じられているかという耐久性を等級1~3で表示します。等級3は三世代(概ね75年~90年)まで構造躯体が耐久することを想定されています。
  3. 「維持管理・更新への配慮」は、設備の点検口が設置されているかなど、給排水管やガス管の維持管理(清掃、点検、補修)のしやすさを等級1~3で表示します。
  4. 「●温熱環境 ●一次エネルギー消費量」のどちらか一方を選択することができます。
    温熱環境は住宅の外皮(外壁、窓など)の断熱性能を等級1~4で表示します。 一次エネルギー消費量(外皮の断熱性能、暖冷房・給湯などの設備の省エネ性能や太陽光発電などの創エネを総合的に評価)は等級1~5で表示します。
    なお断熱性能は、令和4年4月から等級5が新設されて5段階となります。等級4を等級5へ上げるには、断熱材の厚さが1.2倍程度増量されます。更に令和7年度には新築住宅の省エネ基準適合化が義務化され、等級4もしくは等級5が最低ラインとなる予定です。
    ハウスメーカーのホームページに「ZEH基準を採用している」という記載があれば、断熱性能の等級5相当で施工されているので判断材料として下さい。詳しくは次のコラムをご参照下さい。
    ◆参考コラム◆断熱性能等級4と5ってどのくらい違う?「断熱性」を比較する基準を解説!

※ZEH(ゼッチ)(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)とは、「外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅」

具体的な利用イメージ

  1. 設計図書の作成
      ↓
  2. 設計図書の評価
      ↓
  3. 設計住宅性能評価書の交付
      ↓
  4. 施工段階/完成段階の検査
      ↓
  5. 建設住宅性能評価書の交付

性能の最適な組み合わせを選択する「自分軸」を

各等級の数字が大きいほど性能が高く、望ましいように思われますが、そうとも限りません。内容を十分に吟味せず、単純に等級が高くなる設計や、数値のよい設備・施工法を選択するのは、必ずしも合理的とは言えません。居住者が心地よく住める最適解・住宅に求める性能はどこなのか、決めるのは施主自身と言えるでしょう。

たとえば、採光・解放感を望み、窓や開口部を広くとると、概ね気密断熱性は下がる傾向にあります。ご自身のライフスタイルや家族構成、予算、地域の気候や風土、デザインや使い勝手など、評価基準の対象になっていない個別の事情も考え合わせて、性能の最適な組み合わせを選択することが重要です。

メリット(ローン金利・税制・地震保険料の優遇)

  • 省エネ性、耐震性、バリアフリー性、耐久性のいずれか一つ以上の基準を満たす住宅は、当初10年間(又は5年間)、年▲0.25%の金利優遇を受けられるフラット35Sが利用可能です。他の金融機関にも、金利優遇商品があります。
  • 住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置について、省エネ性、耐震性、バリアフリー性のいずれか一つの基準を満たす住宅を取得する場合、非課税枠が500万円加算されます。また、中古住宅でも耐震性能が等級1~3であれば住宅ローン控除を受けることができます。
  • 耐震性能の等級に応じて、10~50%の地震保険料割引が受けられます。

着目したい点★

建築確認が取れている建物=安心な建物、というイメージがありますが、一般的な2階建て木造住宅は、建築確認申請時、構造計算の書類を提出する義務がありません(四号特例)。設計・建築士が責任をもって、耐力壁の壁量計算しているという前提によるものですが、計算が間違っていて、耐震性が足りないまま建てられた住宅があるのも事実です。住宅性能評価の審査を受ければ、通常間違いが見逃される可能性がある構造計算について、第三者チェックを通すことができます。

デメリット(コスト↑・工期↑・項目外の問題)

  • 住宅の性能評価を採用した場合、必要な設計費、工事費、申請費用など10万円から20万円程度が新たに発生します。また、追加の工事や検査、書類作成・申請手続きなどで工期が延びることもあります。
  • 性能等級をクリアするには、設計者や施工会社に一定水準の技術や知識が必要となりますが、住宅性能評価にはアドバイスやコンサルティングの要素は含まれません。そのため評価基準の項目でないことは、例え建築的には望ましくない状態であっても指摘は行われません。

住宅性能評価の限界

住宅性能評価書を取得している住宅でも、入居後に建物の不具合が生じるケースがあります。反対に住宅性能評価書は取得していなくても、入居後に何ら不具合の発生しないこともあります。

住宅性能評価の過程では、断熱性や耐震性などを設計図書でチェックしたり、工事中に数回の現場検査が行われたりします。そのため、取得しないよりは取得するほうが検査員のチェックの目が増えるという点で「損」はありません。

しかしながら、現場検査の回数は限られ検査範囲も抜き取りとなるため、「必ず問題なく施工されている」と断言できるものではありません。また、住宅性能評価の審査項目に入っていないものは現場検査でチェックされませんので、審査項目以外の施工不良を防ぐことは難しいでしょう。この点は理解しておく必要があります。

まとめ

住宅性能表示制度を利用すると、コストアップや工期が延びるというデメリット、また性能保証は絶対ではなく、限界がありますが、経済的メリットも期待できます。

性能基準を整備し現場への徹底が行き届いているハウスメーカーは、住宅性能全般に対する意識が高いと考えられます。住宅は設計から竣工まで、100人以上の多様な個性が関わる建造物です。内容が複雑であるがゆえに、施工会社も施主も「知っておく」機会が圧倒的に増える「住宅性能表示制度の利用」。双方の認知度が底上げされ、「基準をクリアする」という同じ目的に向かって、伴走する間の「統一言語」を持つことは、一考に値するでしょう。

ただし、建物全部ではなく一部だけの抜粋検査になるため、性能評価書を利用するかどうかや、より高い品質にするための第三者現場検査の利用など、設計段階で利用について検討が必要です。

さくら事務所の新築工事中ホームインスペクション(第三者検査)サービスは、着工日が決まる前、またハウスメーカー選定段階でも、無料相談を実施しております。建築に詳しい専門家による相談を無料で利用することができますので、制度について、「よくわからない」「自分の場合は採用すべきか」インスペクションを使うかどうか決めていない方でも、お気軽にお問い合わせください。