俳優の山下智久さんが主演を務めるドラマ『正直不動産』(NHK/毎週火曜22時)。
時には嘘もいとわないセールストークで営業成績No.1の座を欲しいものにしていた登坂不動産の営業マン・永瀬財地(山下智久さん)が、アパート建設予定地にあった祠を壊したことでたたりに遭い、なんと、嘘がつけない身体に……。本当のことしか言えない、まさに「正直さ」だけを武器に働かなくてはならなくなった永瀬が不動産業界で奮闘する姿を描いた同名漫画をドラマ化した作品です。
全10回のうち3話、さくら事務所会長の長嶋修が取材協力をさせていただいていますが、5月10日、そのうちの1話である第6話「仕事をする理由」が放送されました。
※同じく取材協力を務めた第5話「優しい嘘」に関する記事はこちらをご覧ください!
第6話 あらすじ
登坂不動産の社内情報がライバル会社であるミネルヴァ不動産に流れていると確信していた永瀬(山下智久さん)。スパイは永瀬の同僚である桐山貴久(市原隼人さん)である可能性が浮上し、永瀬は桐山に対して疑惑の目を向けていた。ところがそんな時、社長の登坂寿郎(草刈正雄さん)の指示で、永瀬と桐山がペアを組んで3億円規模の大型案件を担当することに。それは「竹鶴工務店が自社の所有する土地を建築条件付き土地として販売するので、その土地と物件の買主を営業で探す」というもの。しかし調査により、竹鶴工務店は物件の建築を下請けの工務店に対し、破格に安い金額で丸投げしようとしていることが判明。この金額では間違いなく欠陥住宅が建てられてしまうが……。というのが第6話のストーリーでした。
さて、第6話の重要なキーワードである「建築条件付き土地」とは何でしょうか。これは、「土地の売主、あるいは売主が指定した施工会社と、一定期間内(約3カ月であることが多い)に建築工事請負契約を結ぶ契約」のことです。土地の売買契約、建築工事請負契約と、契約が2つ存在するのがポイント。要するに、「この土地を買った暁には、指定した建設会社で家を建ててくださいね」という契約のことです。
ドラマの中では、建築条件付き土地の売主である竹鶴工務店が、下請けの秋川工務店に普通では考えられないような安い金額で建築を丸投げしており、秋川工務店の棟梁が生活のために泣く泣く建築資材を間引いている、つまり欠陥住宅の建築に加担している様子が描かれていました。
建築条件付き土地の売買にまつわるトラブル
建築条件付き土地にまつわるトラブルはほかにもたくさんあります。いくつか事例があるので、紹介していきましょう。
嘘だらけの「自由プラン」
建築条件付き土地に家を建てる場合、基本的には「自由プラン」という形で提示されます。土地を買ってから新しく建物を建てるわけなので、建売住宅と違って基本は注文住宅と同じということになるのです(そのため、建築条件付き土地に家を建てる際は「建売」の逆で「売り建て」と呼ばれます)。
しかし、自由プランとは名ばかりで、ほぼ決まったプランしか建てられないことも少なくありません。「あくまでも基本はこの形で、あとはオプションがいくつかあるのでそこから選んでください」というものですね。現実としては外壁の色を変えるのがやっとであり、注文住宅とはまったく違うものである、ということです。
「3カ月以内にプラン決定」は自由プラン?
建築プランに関して、「3カ月以内に決めてください」「4回以内の打ち合わせで決めてください」といった条件が定められていることがあります。
3カ月以内に決めないといけない場合、毎週の打ち合わせは大変なので隔週とすると、1カ月に2回。3カ月だと6回ですよね。たった6回の打ち合わせで、家一軒を建てるために必要な内容を全部決めなければいけないとなると、かなり時間的な制約があります。ゼロから自由にあれこれ詰めていく時間などはなく、結果的に、もともとあるプランを少し変える程度で我慢せざるを得なくなる……というのが事例として報告されています。
ゴリ押しされる「参考プランでの契約」
売主側が「この土地にはこういう家を建てられますよ」という参考プランを出していて、土地の売買契約と同時に「この参考プランの内容で建築請負契約を一緒に結んでください」と買主に依頼することがあります。
ですが、いくら頼まれても、参考プランでの契約はしてはいけません。あくまで建築工事請負契約を結ぶことになりますので、容易に契約が解除できなくなってしまうのです。
このあたりが建築条件付き土地の売買で見られるトラブル事例ですね。しかしなぜ、このようなことが起きてしまうのでしょう。
トラブルの原因にある「負のスパイラル」とは
その原因は、「不動産会社が負のスパイラルに陥っているから」だと考えられます。
負のスパイラルとは、どういうことか。まず、建築条件付き土地は建築条件付き土地を多く扱っている不動産会社は、あまり営業に力を入れなくても買主が自分から来てくれます。実際は建築プランが決まっていますから、買主との打ち合わせもほとんどしません(建築自体を丸投げする会社の場合は建築のことも考えません)。結果、競争に晒されることがなく、設計の質が上がらない。これが負のスパイラルです。このスパイラルに陥っている不動産会社が意外と多いのです。これではいけませんね。
建築条件付き土地を買うにあたり、行政が注意を呼びかけているところもあります。東京都(東京都住宅政策本部)の例を見てみましょう。
(3)建築条件付土地を購入するときは
土地売買契約書に次の条項が約定されていることを確認しましょう。
- 一定の期間内に建物の建築工事請負契約を締結することを条件とすること
- 1の請負契約を締結しなかったときは、又は建築をしないことが確定したときは本売買契約は解除になること
- 2により本売買契約が解除となったときは、売主はすでに受領している手付金等の金員全額を買主に返還すること及び売主は本契約の解除を理由として買主に損害賠償又は違約金の請求はできないこと
東京都住宅政策本部のホームページより引用
これはつまり、仮に希望する家が建てられない、予算をオーバーするなど、「ここの業者さんと契約するのはイヤだ」となった場合に、土地の売買契約が解除されて手付金も返金してもらえるような契約の内容にしておきましょう、ということ。売買契約の際には上記のような条項が入っているかをよく確認しておきましょう
建築条件付き土地の契約に際しては第三者によるインスペクションを活用すべし
ほかにも、我々さくら事務所が建築条件付き土地に関するご相談を受けている中で、いくつか注意してもらいたいことがありますので、まとめてみました。
建築条件付き土地で失敗しないための7カ条
- 土地契約時の条件を確認
東京都がアナウンスしているものと同様、まずは土地契約時の条件を確認すること。土地まで含めて白紙撤回できるかどうか、手付金も返してもらえるかどうか、確認しておきましょう。 - 建築工事請負契約はプラン&見積もりが決まってから
何があるかわかりませんから、土地の売買契約と同時に建築工事請負契約を結ぶのはNG。建築プランや見積もりが確定してから契約を結びましょう。 - 確定プランの図面を必ずもらう
間取り図、平面図、立面図、仕様書など、確定プランの内容が明記された書類は全てもらっておくことが大切です。 - 実際の現場監督が誰なのかを確認
特に下請け業者に工事を丸投げしている場合、書類上の現場監督と実際の現場監督が異なるケースがあります。実際の現場監督は誰なのか、誰がこの工事を任されているのか、それは工事が始まる前に確認してください。 - 現場の進捗を共有
週に1回、ないしは少なくとも隔週に1回は現場の進捗状況を教えてくださいと現場監督に依頼しましょう。これは注文住宅だと当たり前の話ですが、施主が現場に赴くのもいいですし、現場の進捗を知りたいという意志を見せることが大切です。 - 第三者チェックの活用を
現場監督が機能していればいいのですが、監督自身に工事現場を見た経験が浅く、現場の状況がよくわかってないなんてことも。私たちのような第三者機関によるインスペクションを活用し、不具合を未然に防ぎましょう。 - 引き渡し前に保証・定期点検の確認を
引き渡しが済み、暮らし始めた後に不具合があった時に何らかの保証はあるのか、定期的な点検はしてくれるのか、何かあった場合にどこへ連絡を入れればいいのか、引き渡しの前に確認しておいてください。
ここまで、建築条件付き土地のデメリットばかり伝えてしまいましたが、逆に、土地の売買と建築会社が連携していると話がワンストップで進み、スピード感をもって家を建てられるというメリットはあります。条件によっては希望に叶う住宅が建てられることもありますので、その点はご安心ください。ただし、業界特有の「負のスパイラル」に陥りやすい構造が存在していることは、よく知っておいてくださいね。