熊本地震から7年・見えてきた課題とは?~地震に強い住宅をつくるために重要な3つの条件

  • Update: 2023-04-14
熊本地震から7年・見えてきた課題とは?~地震に強い住宅をつくるために重要な3つの条件

熊本地震から7年・見えてきた課題とは?
 ~地震に強い住宅をつくるために重要な3つの条件

熊本地震とは?震度7が2回起きた地震

 熊本地震は2016年4月14日21時26分の「前震(マグニチュード6.5)」に加えて、4月16日1時45分の「本震(マグニチュード7.3)」と、28時間ほどの間に2回の震度7の揺れを立て続けに観測した地震です。前震では熊本県益城町で震度7を本震では熊本県益城町、西原村で震度7を、熊本県菊池町、熊本市中央区、東区、西区などで震度6強の揺れを観測しています。実際には、前震から1週間以内に最大震度6強の地震が1回、同6弱の地震が3回、同5強の地震が2回、同5弱の地震が7回も起きています。一連の熊本地震では、消防庁のまとめによると住宅の被害が全壊が8,667棟、半壊が34,719棟、一部破損が163,500棟という、多くの住宅の被害があった地震です。

 熊本地震は、津波を伴うような海溝型地震(太平洋東方沖地震や南海トラフ地震など)と異なる、内陸直下の浅い場所で発生した活断層による地震内陸型地震・活断層型地震)として、集中的な範囲で地震の揺れによる大きな住宅の被害があったことが特徴であるといえます。熊本地震から7年が経過して、熊本地震における被害の特徴や傾向から、今後の地震に強い家づくりの教訓になる点を挙げてみます。 

4月14日から6日間に熊本地方で起きた震度5弱以上の地震は15回(気象庁HPより)

 

 人の行動についても着目してみます。14日夜の「前震」後に避難を行った後、15日の夜に自宅に戻って16日の地震によって死亡した可能性が高い方が、13人はいるという研究結果(牛山ほか,2016)もあります。気象庁は、前震後の15日に、「震度6弱以上の余震が発生する可能性は3日間で20%」と発表(気象庁)、今後地震が発生しても「余震」だとしてこれを過小評価して帰宅してしまった人もいるという指摘(産経ニュース)もあります。前震は免れても、家に戻ってより大きな地震で被害があったことは実に痛ましいことです。

 巨大な地震後は、より大きい地震が起きる事例や、誘発された地震が起こる事例などもあります。震度7が2回襲ってくることなどはそうそう考えられなかったことですが、熊本地震では実際に発生しました。南海トラフ巨大地震後には、各地の活断層で誘発される地震が想定されます。実際に昭和東南海地震の37日後、活断層の地震である「三河地震」が起きて、2,000名近い死者が発生した事例もあります。東南海地震で耐震性が劣化していた可能性も指摘されます。今後、このような繰り返し地震が起こる可能性もあり、自宅の倒壊によってお住まいの方が亡くなるということがないようにしていきたいものです。

マークされていなかった活断層なのか?

 2016年に起きた熊本地震(本震)を引き起こしたのは、主に布田川断層(帯)という活断層と言われています。この活断層の活動による、30年以内の地震発生確率はほぼ0%~0.9%(やや高い:Aランク)と評価されていました(地震本部 )。南海トラフ地震が30年以内に70~80%という確率からすると2けたも低く、小さい数字に見えます。これは、70~150年ほどで再来するとされる南海トラフ地震と比べて、布田川断層の活動する間隔が、8,100〜26,000年ほどという長い期間であると考えられていたため、30年間に起こる確率で表したときに確率が小さくなってしまうことがあります。

 しかし、地震本部は2013年の時点で、布田川断層帯(布田川区間)と、隣接する日奈久断層帯の全体が同時に活動した際が同時に活動する可能性もあり、その場合には M7.8-8.2 程度という、熊本地震本震から約5~22倍のエネルギーをもつ地震が発生する可能性も指摘されていました(地震本部:布田川断層帯・日奈久断層帯の評価)。熊本地震は想定される最大の被害ではないこと、また決してマークされていなかった活断層の地震ではありません

 なお、熊本地震を引き起こした活断層の布田川断層は、一部が地表に現れています。下の写真は、熊本地震本震後の益城町でみられた断層の様子です。写真を横切る断層の向こう側で、畑が右側に大きくズレていることがわかります。こうしたタイプの活断層を「右横ずれ断層」といいます。なお、今年2月に発生し大きな被害をもたらしたトルコの地震も活断層による地震でした。道路や線路が大きくずれた写真などがニュースで流れましたが、断層の向こう側が左側にズレる「左横ずれ断層」でした。

 地震本部によると、今年1月の発表では日奈久断層帯の一部は「Sランク」のなかでも非常に高い地震発生確率(最大で日奈久断層八代海区間の「ほぼ0%~16%」)とされ、引き続き警戒が必要な活断層となっています。

熊本地震で地表に現れた活断層(2016年4月:横山芳春撮影)

 活断層は、日本の陸域には2,000もあるとされており(地震本部 )、活動度合いや影響が大きい114の活断層を「主要活断層帯」と呼んでいます。毎年年始に情報が更新され、今年1月に発表された最新の評価は地震本部 HPから閲覧できます。

 発生確率が高い部類の活断層は、関東では三浦半島活断層帯、関西では大阪市街を大阪城から南に延びる上町断層帯、福岡では警固断層帯(警固断層のコラムなどのほか、三河地震があった愛知県周辺なども活断層が多い地域です、人口が密集する地域やその周辺にも存在していることがあります。地図に掲載されていない活断層が活動する可能性や、とくに厚く柔らかい地層が堆積する平野部では未知の活断層により地震が起こるという可能性もあります。

 ある活断層が、私たちが生きている間に活動する可能性は非常に低いことは事実ですが、起きた際には大きな被害があることが実態です。大地震に誘発される地震は活断層の地震を起こすこともあるので、巨大地震によって、どこかの活断層が活動し、地震発生の引き金が引かれてしまうおそれもあるでしょう。熊本やトルコは、決して「対岸の火事」ではなくなってしまうケースもあります。南海トラフ地震に比べて確率は低くとも、自宅付近の活断層が活動して地震を起こすことがあれば、甚大な被害が想定されます。お近くに警戒する必要のある活断層がないか、事前に確認しておくと良いでしょう。

日本国内の主要な活断層(地震本部HPより)

木造住宅の被害状況

 木造住宅では耐震基準の違いによる被害の違いもありました。熊本地震で震度7を2回観測し、建物の被害が集中した益城町の中心部で、建築物の悉皆調査(対象をすべて調査する手法)が行われました(国交省報告書)。日本の木造住宅の耐震基準には、1981年5月までが「旧耐震基準」と呼ばれる古い耐震基準、1981年6月以降は「新耐震基準」、さらに2000年6月以降が現在の耐震基準である「2000年基準」とされる三世代の耐震基準があります。

 益城町中心部の悉皆調査では、下の図の通り左側から旧耐震基準、新耐震基準、2000年基準と倒壊・崩壊や大破といった被害は減り、無被害の住宅が増えていく傾向にあります。悉皆調査の範囲で倒壊・崩壊した建物は、旧耐震基準では28.2%、新耐震基準では8.7%、現行の2000年基準では2.2%と新しい基準の住宅程と倒壊・崩壊に至る建築物が顕著に減少する傾向がありました。大破した建物も同様な傾向がある一方、無被害の建物は旧耐震で5.1%、新耐震で20.4%、2000年基準では61.4%と新しい基準で約3~4倍も増えた結果が読み取れます。

木造住宅の耐震基準ごとの被害(国総研資料より)

 

 2000年基準の建物では2.2%が倒壊・崩壊、3.8%が大破しましたが、94%の住宅では軽微・小破・中破以下でした。現行の耐震基準の住宅のうち94%が住み続けられたとみられますが、6%は大破以上の被害でした。「益城町中心部のような被害はごくまれなケースだ」という指摘もあるとは思いますが、実際に私たちの生きている時代に起きた地震として教訓は最大限活用していきたいところです。より住宅が密集する地域で同様の地震があれば、家屋の倒壊、損壊に火災発生なども含めてさらに甚大な被害が生じる可能性もあります。

 なお、2000年基準の建物のなかでも、建築基準法で定められた基準(耐震等級1)の1.5倍の耐震性能がある「耐震等級3」の建物は、悉皆調査エリアに16棟があったとされています。耐震等級3の建物16棟中の14棟(87.5%)で無被害、2棟が軽微または小破の被害で、大破以上の被害を受けた建物はみられませんでした。設計の面からは、耐震等級3の家では対象数は少ないながら、全棟で住み続けられるという結果となりました。兵庫県南部地震の被害などを考慮すれば、新築や築浅のRC造に住むことが理想でしょうが、それができない場合や木造住宅に住みたい場合には、地震に対しては構造計算(許容応力度計算)に基づく耐震等級3が最善の選択肢と言えるでしょう。

 既に建っている既存住宅ではどういった対策があるでしょうか。まず、旧耐震基準の住宅であれば耐震診断や必要に応じて耐震改修を行いましょう。自治体の補助金制度も確認することをお勧めします。自治体によっては、新耐震基準の住宅でも補助金制度が使えることもあります。耐震診断のほか、最近では「微動探査」を用いた家屋の耐震性能の実測もできるようになってきました。耐震改修を行い、制振オイルダンパーで劣化を防ぐことが最善です。

熊本地震から7年 見えてきた課題とは?

 ここまで、熊本地震はどのような地震であったか探ってきましたが、様々な調査結果や教訓などから「地震に強い家を造るには?」を考えると、次の3つの条件が重要になってきます。

  • ①地盤の地震に対する特性や切土・盛土の特徴、液状化エリアといった「立地」
  • ②建物の耐震等級、設計・施工に関わる「初期性能」
  • ③初期性能を長く維持していくための制振ダンパーや蟻害、雨漏りを防ぐなどの「性能維持」

 以下、それぞれについて掘り下げて解説していきます。

①立地 後からでは対応が難しい地盤の課題

 前記の益城町中心部の調査で、「2000年(平成12年)6月以降に建築された住宅で倒壊した7棟」のうち、1棟は著しい地盤変状、3棟は図面調査で明確な被害要因が不明であり震源や地盤の特性に起因して局所的に大きな地震動が建物に作用した可能性があるとされています。これらは建物側だけの課題ではなく、地盤に関係する問題もあると考えられます。また、益城町以外でも、熊本市街地などでは地盤の「液状化」が多く発生し、築浅の建物でも大きな沈下被害を受けている事例などもありました。

 益城町中心部では、昨年9月に国際規格ISO24057として規格化された、地盤の「微動探査」という調査方法で、地盤がどのような揺れで「共振」しやすいかという周期の特性を調べてみた研究例があります。防災科学技術研究所の先名重樹博士らの研究で微動探査結果と家屋の倒壊状況をまとめた図(Senna et al. ,2018)では、地盤の周期が0.5秒前後の地域で建物被害が大きかったことがわかります。

 図では地図の下側が川沿いの軟弱な地盤ですが、それ以上に緑色~黄緑色で塗られている、地盤の周期が0.57秒~0.44秒前後の場所で家屋の被害が大きいことがわかります。「微動探査」では、地盤の周期特性、揺れやすさ、層構造がわかるので、通常新築時に行われることが多いSWS試験などではわからない地震の揺れに対する特性を把握できるようになりました。

益城町中心部における地盤の周期特性と家屋の被害状況
(Senna et al.,2018に加筆)

 なお、地盤の「微動探査でわかる地盤の揺れやすさ(増幅特性)も重要です。ある地震があったとき、揺れにくい地盤で震度5強であった揺れが、揺れやすい(揺れが大きく増幅される)地盤では、計算上は震度6強や7にまで増幅される場合があります。実際に、ある地震の被災があったある地域で、被害が大きな場所と小さな場所で「微動探査」を実施した場合、揺れやすさ(表層地盤増幅率)のランクが2階級(やや低め→やや高め)という事例もありました。

 後でしらべてみると、被害が大きかった場所は「谷埋め盛土造成地」であったことがわかりました。盛土造成地については、揺れやすい地盤と、盛土地盤じたいが地震で大きく変形したり、「滑動崩落」という盛土の街区ごと滑ってしまうような現象も懸念されます。こうなると、個別の宅地だけの対策が難しくなります。丘陵地など高台では、一般に良い地盤であることが多いと考えられますが、盛土造成地の地震時の被害の可能性に留意しましょう。

有る地震被災地における地盤の揺れやすさ(表層地盤増幅率)と被害との関係性

 

 次に、熊本地震の液状化は、海沿いや埋立地でなく、やや内陸で多く発生しました。液状化では、地盤が数10㎝以上も沈下したり、側方に動いてしまうような事例もありました。鋼管杭や地盤改良のない建物では大きく沈下し、沈下を修正しないと居住が難しい事例もあります。杭などがあっても地盤が沈下して建物はそのまま残ることで、周囲の地盤と数10cmほどの段差ができてしまっている事例(抜けあがり現象)がみられました。液状化被害は耐震性能とは関係ありませんので、築浅の住宅でも被害を受けてしまうことがあります。

 液状化による大きな地盤沈下があると、家屋は無事でも地下の埋設配管等が断裂し、地盤にも大きな段差ができてしまうこと、周囲のライフラインも被害を受けてしまうことがあります。液状化の可能性は、地形区分や液状化を対象とした地盤調査で被害の大小が想定でき、また液状化に対応した地盤改良工事を行うことで被害を軽減できることがあります。ただし、自宅は対策工事ができても、周囲の地下配管や道路も含めた液状化対策には個人レベルでの対応は難しいことから、対策には自治体などを巻き込んで長年かけて地域での合意形成をしていく必要などもあります。

熊本地震後の液状化によるとみられる被害(2016年4月:横山芳春撮影)

②初期性能 建物の設計だけでなく施工もチェックしたい

 新耐震基準や現在の基準である2000年基準の住宅は、どのような原因で倒壊に至ったのでしょうか。国土交通省による建築物の被害要因分析(国交省報告書)によると、新耐震導入以降で倒壊した77棟中73棟(94.8 %)で「現行規定の使用となっていない接合部」が確認できたとされています。「現行規定の仕様となっていない接合部」とは、現行基準では取り付けられるはずの接合部の金物が、当時の基準で建てられた建物であるため取り付けられていなかったということを指します。2000年以前は特に構造の接合方法などの決まりはなかったのですが、これが倒壊に至った原因として多かった理由となりました。

 いっぽう、接合部の仕様を明確化した2000年(平成12年)6月以降に建築された住宅で倒壊した7棟では、3棟で「現行規定の使用となっていない接合部」が確認されています。こちらは、本来現行基準通りであるべき接合部が満たされていないことから、設計や工事中の施工不良が考えられるでしょう。

 現行基準の7棟中、上記とは別の3棟は図面調査で明確な被害要因が不明とされ、局所的に大きな地震動が建物に作用した可能性などが指摘されています。これは地盤の変状や損壊ではないようで、地震動が大きかったことはありますが、結果的には耐震性能が不足していた可能性も考えられるでしょう。

新耐震基準の建物が崩壊した原因
出典:「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」報告書 国土交通省住宅局

 

 「現行規定の使用となっていない接合部」による倒壊を防ぐためには、家屋の設計だけではなく、施工の品質が重要になってきます。新築工事の際は、壁や天井などで隠れてしまう前に、金物などが適正に取り付けられているか、チェックすることをおすすめします。

 さくら事務所が実施した新築住宅のチェックにおける集計データによると、接合部の構造金物など耐震性に影響する可能性がある不具合は、182件中150件(82%)で発見されています。何と8割以上のケースで何らかの施工不良が発見される結果に至りました。各段階や部分で確認された不具合の中でも、最も多い数および割合となっています。

新築工事時のチェックにおいて確認された不具合の割合
新築工事の時点で8割に欠陥が!?工程・タイミング別チェックポイント 」より、さくら事務所調べ

 

 実際にあった事例としては、土台と柱、柱と梁を接合するために必要な金物が取り付けられていない耐震に影響する壁(面材耐力壁など)が決められた基準で取り付けられていないなどがありました。金物に関して、新築住宅の建築時に施主様ご自身でチェックされたいとお考えの方は、ぜひ「構造図面」を入手してください。ハウスメーカーや工務店の担当者に「構造図面を見たい」と伝えれば、ほとんどの場合は提供いただけるでしょう。

 なお、現場の工事チェックの際を行う際には、現場作業に責任をお持ちの現場監督さんに一言断りを入れた上で、見学に出かけていただければと存じます。さくら事務所では、新築工事中ホームインスペクション(第三者検査)サービスとして、本来施工ミスを防ぐ最も良いタイミングである工事中に、完成後には発見できない基礎・構造など建物の重要箇所について、建物に精通したホームインスペクター(住宅診断士)が複数回の検査をし、引き渡し時の完成検査(内覧会同行チェック)も併せて行うサービスもありますので、プロの確認をご希望の方は是非ご利用ください。

③性能維持 高い性能を維持することも重要

 良い地盤の立地で、設計・施工とも万全な住宅に住んでいれば安心なのでしょうか。初期の性能は年月や地震などを経験することで劣化していくので、初期の性能を長く維持する「性能維持」が重要です

 初期の耐震性能を維持するには、「制振オイルダンパー」を設置して建物の揺れを減衰し、構造部材の劣化などを緩和することで、初期の耐震性能を長く維持するとということができるでしょう。構造部材を劣化させる原因として代表的なものは、繰り返される地震動のほか、シロアリによる蟻害や、雨漏りなどが考えられます。雨漏りは木造在来工法だけ、などと考えられる方もいらしゃると思います。しかし、さくら事務所が中古住宅のインスペクションをした際に雨漏りと思われる染みを発見した割合を、住宅の構造ごとにまとめたデータが以下のグラフです。

 最も多いのはRC造(鉄筋コンクリート造)次に鉄骨造、木造の「在来」は在来軸組工法:一般的な木造住宅に使われる工法、「2×4」は枠組壁工法(いわゆるツーバイフォー工法)と続きます。これはひとえに、メンテナンス不足が原因と思われます。どんな構造の建物であっても雨漏りのリスクを抱えているにもかかわらず、「RC造は雨漏りしない」というイメージがあるため、メンテナンスを怠りやすくなります。いくら鉄筋コンクリートでも、経年劣化や地震などで一度どこかにヒビが入れば、ヒビはじわじわと少しずつ広がっていき、そこから水が入って染みていきます。また、在来工法では20%程度、2×4工法では10%程度の雨漏りが起きています。特に木造住宅の雨漏りは柱などが腐り、耐震性能が大きく低下してしまいます。構造を問わず、日々の点検、メンテナンスは怠らないようにしましょう。

 既存住宅(中古住宅)の購入時には構造(RC造、S造、木造等)や築年数の確認などとあわせて、内見を行っては家屋の傾きがないか、また床下や屋根裏も含めて著しい劣化などがないか確認することが望まれます。プロによるホームインスペクション(住宅診断)でチェックしておくと良いでしょう。

 

 メンテナンスは建物本体だけでなく、外構部のブロック塀や擁壁においても重要です。熊本地震では、14日の前震で2mの高さの擁壁の上にあるブロック塀が倒壊し、1名が死亡、1名が負傷し、遺族らが所有者に合計6,700万円の損害賠償を求めていました(日経クロステック )。本件はその後、「起訴するに足りる十分な証拠がなかった」として所有者は不起訴になりました(朝日新聞デジタル)。

 擁壁やブロック塀の倒壊で人身事故・物損事故があったケースでは、瑕疵や過失があった場合、民事上、刑事上の法的責任を負わなければならないケースも考えられ(沖縄県建築設計サポートセンター)、瑕疵を知らずに中古住宅を購入しても、民事責任を負う可能性があると指摘されています。

 自宅や購入しようという物件では、購入前の擁壁・ブロック塀の状況や健全性の確認、隣地にまたがる場合や境界にある場合は所有者、また購入後は点検・メンテナンスにも留意しましょう。ブロック塀ではモルタルなどで塗装されていて一見してブロック塀に見えないことや、劣化状況が見えづらい点もあります。適切な点検、維持管理に加えて場合により倒壊等が発生しにくい造りに変更するなども必要になってくるかもしれません。自治体で撤去などに補助金がある場合がありますので、お住いの自治体のHPなどをご確認ください。

熊本地震で倒壊したブロック塀(2016年4月:横山芳春撮影)

地震に強い家を造るには?

 以上、地震に強い家を造るのに大切な立地、初期性能、性能維持の3点について、詳しく実例なども踏まえて掘り下げてみました。立地は後から変えられません。ハザードマップや盛土造成の可能性、地震に対する地盤の特性を知った土地選びが重要です。地震は、確率論だけではなく、起きてしまったときには耐震性能に応じて倒壊等に至ることも想定されます。我が家や自身、ご家族の命を失う可能性もあります。

 今後、南海トラフ地震と合わせて発生するおそれのある繰り返しの地震でも、命を守るだけでなく我が家で住み続けたいのであれば、S造、RC造が耐震性が高いこと、さらに木造住宅の建築時にはできる限り耐震等級3として、施工ミスがないようなチェックを実施すること望まれます。さらに、制振ダンパーで初期性能を劣化させず、定期的な点検や適切なメンテナンスを行うことが、家の長寿命化、またいざという時にも住み続けられる家づくりに繋がることでしょう。

 熊本地震では、地震からは逃れたものの、その後に亡くなった「災害関連死」の方が多く発生しました。「災害関連死」と考えられる方は熊本県・大分県で218名に達し(消防庁のまとめ)、地震で亡くなった方50名を大きく上回っており、死者数の8割に達しています。エコノミークラス症候群やトイレの課題なども浮き彫りになりました。避難所や狭い車内避難をしないためにも、地震後にも我が家で暮らし続け、避難施設に入らないことができれば災害関連死の方も減らすことができるでしょう。

 しかし、耐震性が不足していると、熊本地震の前震後の本震のような場合に被害を受けてしまいます。ただ倒壊せず生き延びるだけではなく、健康的に暮らし続けるため、家が大破するような被害を受けないためにも、是非立地や建物の耐震性能にも目を向けて頂きたいと考えます。

 もちろん、立地では住みたい場所やご先祖からの土地、親御様が買われた家など、初期性能を高くする(理想論は新築RC造でしょうが)にはコストもかかることから、リスクを知ったうえでコストやご家庭・個人の優先度との兼ね合いが大事だと考えます。リスクを知らずに、地震後に後悔されるというケースがなくなることを願っています。

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■記事執筆者(災害リスクカルテ監修)

横山 芳春 博士(理学)
だいち災害リスク研究所所長・地盤災害ドクター

地形と地質、地盤災害の専門家。災害が起きた際には速やかに現地入りして被害を調査。広島土砂災害、熊本地震、北海道胆振東部地震、山形県沖地震、逗子市土砂災害等では発生当日又は翌朝に現地入り。
現地またはスタジオから報道解説も対応(NHKスペシャル、ワールドビジネスサテライト等に出演)する地盤災害のプロフェッショナル。