老若男女から愛される世田谷区、地形や災害リスクは大丈夫?

  • Update: 2021-07-26
老若男女から愛される世田谷区、地形や災害リスクは大丈夫?

この記事はプロのホームインスペクターが監修しています

東京23区の西南端にある世田谷区。人口や世帯数は区内で最も多く、「住みたい街」のランキングでも上位にランクインする街を多数有する区です。

一般的には成城など「高級住宅地」のイメージも強い世田谷ですが、異なる個性を持った多彩なエリアが集まった区であるのも魅力です。例えば、渋谷に近くおしゃれなお店が多い三軒茶屋、サブカルチャーの聖地である下北沢のように若者人気の高いエリアもあれば、子育て環境が整った二子玉川、経堂や駒沢大学などの学生街、商店街があり、親しみやすい千歳烏山のような街も世田谷区です。エリアによってさまざまな顔を持つため、幅広い世代に暮らしやすい街といえるでしょう。

砧公園や世田谷公園、駒沢オリンピック公園など自然いっぱいの公園も多くあります。実は公園数は23区内でも3位。練馬区の次に農地が多いことから、緑が多く住みやすい区であることもわかりますね。
たくさんの路線が乗り入れ、新宿や渋谷方面へのアクセスも便利で、通勤・通学にも困りません。

エリア毎に異なる特徴を持つ世田谷区だけに、住宅購入の選択肢も広がります。生活環境や地価などの要素も大切ですが、土地の高低差や地盤なども気になるところです。また面積が広い世田谷区は、場所によって地形の特徴も異なります。どういった観点で選べばいいのか、迷われる方も多いのではないでしょうか。
そこで、東京都のホームインスペクターが、専門家の視点から世田谷区の特徴を解説します。ご検討の参考にしていただければ幸いです。

世田谷区地形の特徴と注意点

まずは世田谷区の地形の特徴から見ていきましょう。エリアによって地形に違いがあり、地盤の強さや災害リスクにも差が生じています。

台地と低地から成り立つ世田谷区

東京都の西側に広がる「武蔵野台地」の南端が世田谷区にあたります。武蔵野台地は火山灰と砂などで形成された粘土質の土壌が堆積した火山灰(ローム層)からなる高台の平坦地です(主に下図の「台地」の地域)。武蔵野台地は、強くしっかりした地盤であり、地盤の沈下や、地震の揺れ、液状化、大規模な水害などの災害リスクも小さいとされています。

安定した高台の地盤であり、災害リスクも小さい武蔵野台地ですが、地形や地域によっては例外もあります。
その1つが、台地の上でも浅い谷やくぼ地になっているようなところです(主に下図の「台地上の凹地・浅い谷」の地域)。台地部は標高30~50mですが、河川による浸食などで起伏があり、それが丘や谷という地形になっています。低いところは標高10~25mと台地部とおよそ20mの高度差があるのが特徴です。

水は高いところから低いところに流れますから、低いところには、雨水など周囲から水が流れ込みやすいのです。そのため、近くに川がなくても、雨水が集まって排水されない「内水氾濫」の危険性を考慮する必要が出てきます。

多摩川をはじめ支流の川沿いは「谷底低地」が広がる

世田谷区の南側、ちょうど神奈川県に接する境目部分には多摩川が流れています。この多摩川に沿って、低地が広がっています。区には多摩川の他、区の西側から多摩川に流れる支流の野川や仙川、東側の目黒川、砧公園から等々力駅近くを南北に流れる目黒川などの河川が流れます。この川沿いエリアでも、台地から低い「谷底低地」の地形が広がっています。

これらの川沿いの低い土地は、河川の洪水・氾濫に気をつけなくてはなりません。谷底低地は川が運んできた軟弱な泥や砂が堆積している場合が多く、軟弱な地盤の可能性も考えられます。地震の時に揺れが大きくなりやすい傾向にあります。谷底低地の中には、植物がたまってできた「腐植土」がたまる沼のような地盤が分布するケースも少なくありません。腐植土は多くの水分を含み、すき間が多い構造の軟弱な地盤で、地盤沈下を引き起こすリスクがあるのです。

台地と低地の間にある標高差のあるエリアでは土砂災害に注意

台地の高台と川沿いの低地の間は、標高差のある斜面となっています(主に下図「台地の斜面」の部分)。斜面は大雨の際や地震時に土砂災害(がけ崩れ)の懸念があります。もちろん土砂災害(特別)警戒区域が指定されているエリアもありますが、区域指定がなされていないがけ地も存在します。近年、ゲリラ豪雨など異常気象が頻発する中、どこで災害が起こるかを予測するのは難しくなっています。区域指定がないがけ地でも、災害リスクを意識しておく必要があるでしょう。

加えて斜面では、山側を削り、谷側を埋めたひな壇型の造成地をつくり、宅地として造成することがあります。このような場所では地震時の宅地地盤の崩壊や、地盤沈下が考えられます。また斜面では崖の崩壊などを防ぐ壁状の擁壁がつくられますが、この擁壁の倒壊などが生じる可能性も。

世田谷区の地形の特徴
世田谷区の地形の特徴
国土地理院「地理院地図」に土地条件図を表示して抜粋。
図中に地形の名前(紫色文字)、左下に地形の凡例を追記

丘や谷など傾斜がある地域のチェックポイント

ブロック積み

大きな多摩川といくつかの小さな河川に挟まれた世田谷区。これらの大小複数の河川によって台地が浸食され、枝分れした樹木のように丘や谷の起伏が生じています。丘と谷には標高差があり、傾斜のある地域も存在します。

その傾斜地に形成された住宅地は、敷地の境界に土留め(どどめ)が設けて区画されています。土留めとは、傾斜地(崖)の法面や盛土などの崩壊防止のため、壁などの構造物で土をせき止めることをいいます。ちなみに擁壁とは、土留めのために設置する壁状の構造物そのものを指しています。

世田谷区に限ったことではありませんが、問題のある土留めを設けている街もあります。例えば目隠し目的に設けられた背の高いブロック積みもその1つです。

意外に多い!土留めと背の高いブロック積みには要注意

実は特殊なものを除き、ブロック積みによる土留めは基本的に認められていません。ブロック積みに土の圧力がかかっていることから、地震時には転倒のおそれがあります。さらに、時間の経過と共に傾斜してくる危険性もはらんでいます。

数年前、大阪北部を震源とする地震によりブロック塀が倒壊、歩行者が亡くなるという痛ましい事故もありました。ブロック積みによる土留めは、強度・耐久性ともに問題がある場合が多いのです。

ブロック積みは以下の2つのポイントに注意しておきましょう。

  • 控壁の有無と間隔
  • ブロック積みと建物との距離

①控壁はある?離れていない?

ブロック積みの土留め関しては、建築基準法により高さが2.2m以下で、1.2mを超えるものは長さが3.4m毎に控壁を設けるよう定められています。控壁とは、石、ブロックなどを積み上げてつくった壁を補強する目的で設ける補助壁にあたります。

ところが、ブロックが6段積み(1.2m)を超えても控壁がなかったり、控壁があっても長さが3.4m以上離れていたりするケースも珍しくありません。そのようなブロック積みは転倒の可能性が高くなります。加えて、経年劣化で古いものも多く、より危険な状況となっているのが現状です。

②敷地境界ギリギリのブロック積みは倒壊のおそれも

中古物件をはじめ、新たに一戸建て用として売られている土地でもギリギリの広さまで分割されてしまったものが多くあります。敷地境界にある危険なブロック積みと建物まで十分な距離が取れないものも少なくないのです。そのようなケースでは、地震によりブロック積みが倒れるおそれがあります。建物そのものが耐震化されていても、ブロックにより建物に大きなダメージを負ってしまうかのしれない物件も存在しているのです。

特に注意したいのが、土地売りの物件で1.2mを越えるブロック積みがある場合です。建物の建築確認申請の際にはそのブロック積みの安全性が求められます。安全ではないと判断されたケースでは、是正をしなければ許可が得られないこともありえるのです。

ブロック積みは、隣地と共有されていることも少なくありません。隣地の所有者に許可を取らなければ、自分たちで勝手に是正することも不可能です。ところが隣地の所有者に許可を得られなければ、ブロック積みの範囲を敷地面積から除外して建物を計画しなければならなくなります。敷地がさらに少なくなってしまう可能性が出てくるのです。

隣地と高低差があると見た目で本来の高さを見逃してしまいがちです。購入予定地のブロック積みに心配がある場合には、まずは専門家に相談し、アドバイスを受けることをおすすめします。

道路と敷地の高低差を確認しておこう

傾斜地に造成された住宅街の問題点として、敷地内や道路と敷地に高低差も挙げておきます。高低差のある敷地は用途地域内の高度地区に該当するケースがあります。この場合、建物の高さが厳しく制限されることになります。そこで建物の高さを制限内に収めるため、地階を設けたり、地階でなくても1階の床を下げて建てたりする住宅が存在するのです。

地階や床下面が低い1階は浸水やカビ・腐食のリスク大

一般的に建物は、1階の床下面は地面より高くして空間を設け、基礎の立ち上がりに換気口を設けてその床下を換気や通気を行って湿気が滞留しないように設計されます。

ところが地階や1階の床下面を地面より下げてしまうと、水は低い方へ流れるため雨水が床下内に浸入しやすくなります。また、土に接する面の床や壁は他のところと比べて冷えていることがあり、空気中の湿度が高くなり結露をして水がたまりやすくなるのです。地階だけでなく1階の床を下げても同様の問題が出てきます。床下の通気や換気の量が少なくなるからです。

そもそも換気口自体が設置されていない住宅もあります。その場合、結露や湿気の発生率も高まります。浸入した雨水や結露によってたまった水は乾燥まで時間がかかります。そして水がたまった状態が続き、木材などを腐食させ、いたるところにカビが生じさせる結果につながります。

すでにそのような状況が発生している際には、対策を講じなくてはなりません。雨水の浸入が原因なら防水対策、結露による場合は断熱対策が不可欠です。加えて機械換気などの検討をすることもあります。原因により対処方法が異なるため、まずはしっかりと調査が大前提です。

症状が出てない場合でも床下・壁点検口があれば定期的に点検口を開けて内部の状況を確認しましょう。天候など季節的な要因、また台風やゲリラ豪雨などで突発的に生じることも考えられます。早い段階から対策を検討しておくことが鍵となります。

ハザードマップから見る世田谷区の災害リスク

二子玉川

災害が起こった時、被害が想定されるエリアや避難する場所などを表示した地図であるハザードマップ。
住宅購入エリアの土地の特徴や災害リスクを認識する地図として役立てる人も増えています。重要性は理解しているものの、見方や活用方法がよくわからないという声も聞かれます。そこで今回は、世田谷区のハザードマップの特徴と過去の災害を関連づけて解説していきます。

多摩川の洪水に注意が必要なエリアとは

世田谷区の多摩川流域、二子玉川から南部の低地で最も注意したいのが多摩川の洪水です。世田谷区が公開している洪水・内水氾濫ハザードマップ(多摩川洪水版)データでは、二子玉川駅から多摩川の下流側で想定される浸水深が大きくなっています。

さらに玉川総合支所付近では、堤防の決壊などで氾濫した川の流れを受け、早期に区域の外への避難が必要な「家屋倒壊等氾濫想定区域」も広く広がっている他、最大で水の深さ10~20mの区域も見られ、水の深さ5~10m、3~5mの区域は広い範囲に及んでいます。

過去、令和元年台風19号の時には、多摩川低地で浸水被害が見られました。当時の被害は、世田谷区の浸水確認箇所図・R1台風19号にその位置が取りまとめられています。

多摩川以外の中小河川、内水氾濫リスクのある箇所

世田谷区では、多摩川から離れた中小河川や、内水氾濫についても洪水・内水氾濫ハザードマップ(内水氾濫・中小河川洪水版)データでリスクのあるエリアを公開しています。

データによると、中小河川沿いで水の深さ1.0~2.0m、2.0~3.0mの想定がある地域があります。戸建て住宅や1、2階の居室のマンションなどでは、想定される浸水深を確認しておきましょう。台地の上でも、浅い谷やくぼ地では内水氾濫の可能性もありますから、水の深さ0.1~0.5mから0.5~1.0mの被害が想定される地域も存在します。まずはハザードマップを確認しておくことが望ましいです。

世田谷区では、ハザードマップだけでなく、過去の水害による浸水確認箇所一覧(平成元年~令和元年)も公開しています。どのエリア(住所)が被害に遭ったのかを含め、浸水した深さ、被害棟数などをチェックして備えにつなげるのがおすすめです。

高低差のある世田谷区 低いエリアと傾斜地域に目を配ろう

起伏に富んだ地形である世田谷区。武蔵野台地の一部、高さのある台地部分と、多摩川をはじめ多くの河川に浸食されてできた低い部分、その境目で部分の傾斜とエリア毎に特徴が異なります。

台地部分は安定した地盤となっていますが、一部の凹地・浅い谷では水が集まりやすく内水氾濫のリスクもあります。また多摩川沿いに低地が広がり、河川の洪水・氾濫に注意が必要です。低地と台地の境目の標高差がある斜面では土砂災害(がけ崩れ)の懸念もあります。ハザードマップなどでリスクのあるエリアを確認しておくことをおすすめします。

ただ、最近は天候の変化も激しく、リスクの高いエリアだけが被害に遭うとは言い切れません。その点が、地域や地形からの土地選びを難しくしています。また傾斜のある土地では、以前から存在するブロック積みなどの危険性も心配です。すべてのリスクに備えるためには、プロである第三者の視点が意味を持ちます。

そこで検討したいのがホームインスペクション(住宅診断)です。当社では、第三者としての立場を守りつつ、住宅そのものの診断だけでなく、地盤の揺れやすさを考慮した耐震性アドバイス、ご希望地点の災害リスクのアドバイスなど、不動産・住まいの総合不動産コンサルティングサービスを多数ご提供しています。

厳しいトレーニングをくぐり抜けた精鋭ホームインスペクター(住宅診断士)が、ご相談に応じます。調査技能はもちろんホスピタリティや使命感を兼ね備えた建築士が客観的にアドバイスを行っています。

お問い合わせから当日まで迅速かつ丁寧に行える本部体制を整備し、お待たせすることがなく、本部専任の建築士も在籍しています。

「宅地建物取引士」「マンション管理士」など、建築士以外の国家ライセンス保有者が在籍し、建物以外にも契約やマンション管理など幅広いご相談対応・フォローが可能なのは、さくら事務所ならではでございます。

世田谷区で新築、ご購入をご検討の方は、お気軽にご相談ください。

ホームインスペクター 田村 啓
監修者

さくら事務所 執行役員
さくら事務所 プロホームインスペクター
さくら事務所 住宅診断プランナー
だいち災害リスク研究所 研究員

田村 啓

大手リフォーム会社での勤務経験を経て、さくら事務所に参画。
建築の専門的な分野から、生活にまつわるお役立ち情報、防災の分野まで幅広い知見を持つ。多くのメディアや講演、YouTubeにて広く情報発信を行い、NHKドラマ『正直不動産』ではインスペクション部分を監修。2021年4月にさくら事務所 経営企画室長に、2022年5月に執行役員に就任。