今年の梅雨は、特に全国的には6月下旬から7月上旬にかけて大雨に注意が必要と言われています。
また今年はラニーニャ現象が発生すると言われており、今年の梅雨は猛暑と大雨が隣り合わせと考えられます。そのため猛暑と同様に大雨についても警戒をしなければなりません。
そのため、これからご自宅など住まいの引き渡しがある場合、引き渡し前、特に工事中に気をつけておきたいポイントを3点に絞って解説していきます。
工事中に断熱・気密で気にするべき3つのポイント
2025年度から省エネ義務化が始まります。そのため住まいの性能については、断熱や気密への関心が高まっており、SNSやYouTubeなどを中心に様々な情報が発信されています。
ここでプロのホームインスペクターがすすめる断熱・気密で、工事中に気にすべき3つのポイントを紹介します。
<工事中に気にするべきポイント>
1.雨が降った際の対応
2.断熱材を敷き詰める際、隙間をつくらない
3.防湿気密シートを貼る
もちろん断熱や気密性を維持するために、性能が素晴らしい断熱材を用意したいと思うことは非常に重要です。ただしそこで忘れてしまいがちな観点は、例え素晴らしい素材が揃っていても、しっかりと工事されていないと性能を遺憾なく発揮することはできません。まさにそこが落とし穴になる場合さえあります。
いま施工現場で何が起きているのか。現在施工現場も省エネ義務化までの過渡期なので、断熱性能や気密性のための施工は手探りで行われている現場も多いと言われます。もちろん早くから取り組んでいる工務店はノウハウもたまり、職人さんも阿吽の呼吸でわかっている部分があります。その一方で来年度から義務化だと慌てている現場もあります。つまり施工現場によってこの断熱や気密に関する施工では格差が激しくなっています。
断熱材は隙間なくいれることが重要
ここからは具体的なチェックポイントの内容です。まず「断熱材を隙間なくいれる」ことが重要です。断熱材の種類には綿がふかふかしたようなタイプ(グラスウールなど)や、吹き付けて膨らむタイプがあります。
断熱材は柱と柱のあいだまで隙間なく詰めないと、断熱性能が落ちます。最近は特にグラスウールタイプを敷き詰めるとコスパが良いため断熱材の主流になっていますが、このグラスウールタイプは規格が厳密に決まっています。910の柱にピッタリと敷き詰められる場合はいいのですが、間崩れといって910や455といった規定からは外れる柱のピッチの場合、少しでもずれていると、職人さんが自分でグラスウールを切って敷き詰めていかないくてはなりません。
職人さんがグラスウールを切って詰めていく場合、ピッタリ敷き詰められない場合があります。その場合はグラスウールで間を埋め、規定の厚さにする必要があります。しかし、それが出来ていないことがあります。柱と柱のあいだに入っていればいいだけの前提でグラスウールの袋を無理やり詰めてもいけません。例えばリノベーションなどで配管を抜いている場合にも、その周りで隙間が出来てしまう場合があります。隙間なく断熱材の袋がピシッと貼られていないと、袋の中にあるグラスウールがあとから中身が落ちてしまい、発揮してほしい機能が半減する場合もあり、貼る際には注意が必要です。
防湿対策をしっかりすることも大切
断熱だけでなく、湿気を防ぐ防湿もしっかりしなければなりません。なぜかというと断熱材(特にグラスウールなど綿状の断熱材)は湿気に強くないためです。断熱材に湿気がたくさん含まれると断熱性能が落ち、下手するとカビが発生します。そのため室内と外壁のあいだの壁の中には湿気を溜め込みたくありません。
屋外側の湿気を入れないことはもちろんですが、室内側の湿気を入れないことも重要です。湿気は私たちが呼吸をするだけでも発生します。つまり室内は湿気に満ち溢れています。その満ちている湿気を壁の中に入れないことが非常に重要です。これらを達成するために必要なことは、室内側で防湿をしっかりすることです。防湿をしっかり室内側で行い、万が一湿気が壁に入った場合は外に出すような仕組みを作る。これが基本的な壁の中の仕組みです。
室内の防湿は、防湿気密シートを貼ります。防湿気密シートは湿気を通さず、室内側で発生した湿気が壁の中に入らないように防いでくれます。隙間なくしっかり貼ることで壁の中の断熱シートに湿気を届かせないようにします。
防湿のやり方は2パターンあります。
袋タイプの断熱材(グラスウール)には防湿気密シート(袋入り断熱材では一般的に「防湿フィルム」と言われます)になっている面があり、防湿フィルムになっている面を室内の壁向きに貼っていきます。そのため無理やりこれを貼っていくと、せっかくの防湿フィルムがぐちゃぐちゃになり、隙間が出来てしまいます。防湿フィルムは柱のピッチに合わせてビッチリと隙間なく貼り、貼ったあとにタッカーを打っていきます。
もう一つのパターンは、グラスウールの断熱材を詰めたあと、防湿気密シートをあとからきれいに重ねて貼るパターンです。このパターンの場合、重ねて貼る際の重ねしろを何mm以上取るか規定が決まっています。
しかし袋タイプの断熱材がまだビッチリと貼られていないケースも多く、あとから防湿フィルムを重ねて貼るときの重ねしろが規定通りに取れていない場合もあるようです。そのため素材をどれだけ品質の高いものを用意しても、結局断熱や防湿に関しては、作業する職人さんの質で大きく左右される可能性が高くなります。
あまり知られていない水や雨の危険性
雨が降ったあとは、濡れた部材はしっかりと乾かす必要がありますが、これから梅雨や台風など雨が多いシーズンになってくると、工事中の建物が濡れてしまう場合がありますが、多少雨で濡れた場合でもしっかりと乾けば部材は本来の性能を発揮します。
しかし、雨の多いシーズンではなかなか乾かない場合もあり、連日雨が続けばずっと湿度の高い状態が続きます。その結果、まだ完全には部材は乾いていないなか、引渡日を変更できないため作業してしまおうとか、表面上乾いているからもう大丈夫だろうと、しっかりと乾き具合を確認せずに作業を再開してしまう現場もあります。
柱がしっかりと乾いておらず湿気が取れない状態のまま断熱材を貼ったり、そこに防湿気密シート(防湿フィルム)を貼ってしまうと、乾いていないことにより湿気が壁の中に溜まりやすくなってしまいます。つまり壁の中の湿度が高まってしまい、壁の中で結露が発生しやすくなるのです。
壁の中が結露でひどくなると、「え、雨漏りでもしてる?」と錯覚するぐらいです。結露が放置されてしまうと断熱材は濡れていきます。そうすると断熱材は断熱性能が落ち、最終的にはとんでもない量のカビが生えてしまいます。壁の中の結露のもっとも厄介なところは、表になかなか現れないため、誰も気づかないことです。カビが発生したころになると、人体に有害になっているので悪循環となります。
そのため、特に断熱性・気密性の高い家を建てることを希望する皆さんは、工事中に濡れてしまった場合は、まずしっかりと乾かすことを心がけてください。
「ぱっと見で乾いている」は、実際に乾いているとは言えません。実際に確認する場合は、部材に含水率計を刺し、水分がどのぐらい含まれているのかを調べる必要があります。目安としては、含水率計を刺した際、その値が20%を大きく超える値の場合で、特に部屋のいたるところで20%の値を越えている場合は、部材は乾いていないと疑うべきです。
プロのホームインスペクターでも、含水率計で調べた値が20%を大きく超える25〜30%と表示されていても、実際の見た目には部材は乾いているように見えることがあります。そのためしっかりと含水率計で調べないと乾いているか乾いていないのかはわからない場合が多いです。
しっかり予防線を張っておくことでリスク軽減に
ホームインスペクションなどで施工現場に何らかの不具合が見つかったときに、現場監督が施工現場をチェックしていたけれど見落としがあった場合、後からマニュアルにはこう書いてあると施主側から伝えるケースがあります。
ここでプロのホームインスペクターが知っておいてほしい点として挙げているのが、できれば施工前に前もって懸念している点、重視してほしいポイントを、しっかり現場監督に伝えることで、あらかじめ予防線を張ることが重要だという点です。
前もって伝えることでリスク軽減にもつながります。もし万が一不具合が起きたときにはリカバリーがしやすくなります。リカバリーについても、お引渡し時期がタイトだと万が一のときにリカバリー手段が限られてしまいます。もし考慮してスケジュールを考えられる場合は、一ヶ月ぐらい余裕のある引き渡しスケジュールであれば、万が一何かあったときのリカバリー手段がいろいろと考えやすくなります。